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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第13回

 エドゥワール=ロジェという人は、敵を作りにくい性格の持ち主である。
 医者の家に生まれ、両親は、彼があとを継いでくれるものだと信じていた。ロジェ自身、音楽的才能に恵まれていたが、音楽は趣味だと思いこんでいたのである。が、友人のベルナール=ルブランに連れられて出かけたメランベルジェのコンサートを聴き、人生が変わったのであった。
『どうして、こんなことをしているの? 本当は、違うことがやりたいんでしょう?』メランベルジェの音楽からこんなメッセージを読みとった彼は、自分は本当は作曲家になりたかったのだと悟ったのだという。
 彼の作曲家としてのスタートラインは、メランベルジェの弟子たちの誰よりも遅れていた。
 しかし、彼には、音楽へ至るまでの長い道のりの間に培ってきたかなり独自の人間関係があったのである。
 メランベルジェの弟子、一般に「マルティニスト」と呼ばれている人たちは、音楽家の間で孤立傾向があった。ロジェは、自分たちとほかの音楽家のパイプ役であった。彼は、メランベルジェに反感を持っている人たちのグループとも、ワーグナー愛好家たちのグループとも、コンセルヴァトワールの現役の学生たちとも接点があった。逆に言うと、メランベルジェの弟子の中では、かなり異色の存在だったわけである。
 メランベルジェ自身は、ワーグナーが嫌いだった。一時期は、ロジェと一緒に「バイロイト詣で」までしたことがあるベルナール=ルブランも、師の影響を受け、次第にワーグナーから離れていった。どういうわけか、メランベルジェの音楽と人柄にのめり込んでいくと、ワーグナーが嫌いになる傾向があるようである・・・というのが、ロジェの感想であった。
(たとえば、最年少の弟子、クラリス=ド=ヴェルモンがそうである。かの女は、ほとんど他人の影響下にない頃から弟子入りしているからか、ワーグナーに拒否反応を示している。もう少し、いろいろな音楽を聞かせるべきではないのか?・・・こんな考えの持ち主からなのかもしれないが、メランベルジェは、クラリスの教育を、途中からルブランに引き継いだのである。自分が教えてみたかった・・・と、ロジェはフランソワーズ=ド=ラヴェルダンへの手紙に記している。)
 ただ、メランベルジェの偉大なところは、一人一人の個性をきちんと認識していることである。そうでなかったら、ロジェのような人間は、メランベルジェの弟子、とは呼ばれなかっただろう。ロジェ自身は、メランベルジェの元を離れるつもりはなかったのである。
 いや、そこにフランソワーズがいたから、なのかもしれないが。
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