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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第71章

第1279回

「きみは、ぼくがどんなにきみを愛しているかよく知っているはずだ。それでも、彼を選ぼうって言うんだね? だめだ! 許さない!」ウラディーミルは興奮して叫んだ。
 シャルロットの目には恐怖が浮かんでいた。あのときと同じ恐怖が。
 ウラディーミルはそれに気づいていた。だから、自分を止められずに口走った。「ぼくは、きみのために、こんな体になってしまった。ぼくの体には、ガラスの破片が残っているし、今のままでは、きちんと歩けるようになるかさえわからない。それなのに、きみはぼくを捨てようとしている」
 シャルロットの体は小刻みに震えだし、かの女は耳をふさいだ。
「シャルロット! きみはぼくのものだ。聞くんだ! 彼のもとに行くことは許さない!」
 彼は、怒りのあまり、自分でも信じられないような力を出した。彼は、両手をベッドの手すりにかけ、くるりと上半身を90度回転させた。そして、ゆっくりと足をおろした。
 シャルロットはぎょっとして枕元の椅子から立ちあがり、後ずさりした。彼が何を意図しているのかわからなかったからだ。今度こそ殺される! かの女はそう思った。
 しかし、手すりにつかまりながら立ちあがったウラディーミルの視線は、窓の方を向いていた。彼は、四つんばいになりながら窓の方に向かっていた。そして、窓のところまで来ると、ゆっくりと立ち上がり、自分で窓を開けた。15センチくらい開いたところで、彼は振り返り、シャルロットを見た。
 彼は拳を握っていた左手をゆっくりと開いた。そして、右手の二本の指で手の中にあった小さな指輪をはさんだ。
「こんなものがあるから、きみは彼を見つめているんだな?」彼はそう言うと、指輪を窓際から投げ捨てた。
 シャルロットは金切り声を上げた。
 彼はシャルロットを見て、不敵な笑いを顔に貼り付けた。「これで、きみとコルネリウスはおしまいだ」
 シャルロットは、一瞬、観念したようにうなだれた。
 彼は、勝利を確信した。シャルロットが絶望的な表情を浮かべながら自分の方に歩いてきたからだ。彼は、かの女に殴られるのを覚悟するかのように体をこわばらせていた。しかし、不敵な笑いをやめなかった。
 シャルロットは思いつめたような表情で窓際に向かい、ウラディーミルには目をくれずに窓を全開した。
 彼はかの女の意図を見抜いた。かの女は、ここから飛び降りようとしている! 彼はとっさにかの女を後ろから抱きしめた。
「はなして、お願い!」シャルロットは泣き叫んだ。かの女は、彼を振りきろうとしていた。間違いない、かの女は飛び降りようとしていた!
「やめろ! ここは4階なんだぞ!」彼は青ざめ、かの女を窓から引き離した。
 シャルロットは、彼に突き飛ばされ、その場に倒れた。
「どうして止めるの? わたしを死なせてちょうだい!」シャルロットは逆上したように叫んだ。
「そんなにぼくが嫌いなの?」ウラディーミルも息を弾ませていた。
「言ったでしょう。あなたが嫌いなんじゃないの。彼が好きなだけよ」シャルロットはしゃくり上げた。
 彼はかの女を見下ろしていた。「死ぬな。彼のために死んではいけない!」
 シャルロットは激しく首を振りながら泣いていた。
「愛している」ウラディーミルは絶望的な口調で言った。
 シャルロットは首を横に振った。
「きみは、ぼくのものだ」ウラディーミルはさらにそう言った。
 シャルロットは泣きながら首を振った。
 突然、かの女は立ちあがった。そして、彼に背を向け、ドアに向かって歩き出した。
「どこへ行くの?」彼が訊ねた。
「指輪を探してくるわ」シャルロットが鼻声で答えた。
「やめろ! ここにいるんだ!」
 シャルロットはコートに袖を通し始めていた。ウラディーミルはたどたどしい足取りでかの女を追いかけ、コートの裾を握りしめた。
「お願いだ、どこにも行かないで欲しい」ウラディーミルは懇願した。
 しかし、シャルロットは彼を振りきった。「ウラディ、もし、指輪が見つからなかったら、今度こそ生きてはいない。わたし、本気よ」
 そして、かの女は出て行った。
 ウラディーミルはその場に体を投げ出すようにして、大声を上げて泣いた。かの女は、もはや彼の手の届かないところにいる。かの女を愛すれば愛するほど、かの女は苦しんでいた。
『あなたのは、愛情の押し売りだわ』イーリス=ド=メディシスの言葉がよみがえった。
 そのとき、彼は、自分に勝ち目がないことをはっきりと悟った。
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