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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第126回

 マドレーヌ=フェランという女の子は、あまりド=ルージュヴィル家の特徴を受け継いでいない子どもだった。ただ、いとこのフィルと並べてみると、どことなく口元が似ていた。きょうだいには見えないが、いとこ同士だと言われれば、なるほど、と思わせるような女の子であった。
 フィルもマドレーヌも、二人ともブロンドの髪に青い目をしていた。ただ、ザレスキー一族であるフィルの目の方が澄んだブルーの目であった。同じブルーでも、マドレーヌの目はどちらかというとシャロンの目に似ていた。
 カロリーナ=ロストフスカは、マドレーヌの特徴を細かくステラに報告し、ポーランド語で結論を言った。
「・・・この子どもは、プランス=シャロンの隠し子じゃないわ。ほとんど類似点はないもの」
 ステラは、ほほえんだ。「まさか、シャロンに限って、そんなこと・・・」
 ステラは、まさかそんな可能性はないとは思ってはいたが、このカロリーナの言葉に胸をなで下ろした。かの女は、自分が見えなくなって以来、カロリーナの目を信用していた。カロリーナの観察は正確だった。ステラは、自分の疑惑までカロリーナに観察されていると思っても、不思議に嫌悪感を感じなかった。むしろ、自分の心の奥底まで読みとってくれて、適切な助言をしてくれるこの女性が好きだった。今回のことも、少女の奇妙な生い立ちの話を、<もしかすると、彼の父親ではなく、彼の子どもだったら・・・>という漠然とした不安を、黙っていても見抜いていて、しかもさりげなく否定してくれたかの女の優しさに、ステラは感謝していた。
 フィルは、ステラからマドレーヌの境遇を聞き、かわいそうないとこに同情していた。彼は、かの女に会う前から、かの女のいいお兄さんになろうと思っていた。自分には両親がいるが、かの女にはいない。だから、その分、かの女を大切にしなくてはならない・・・彼は、ステラの話を聞いてそう思ったのである。
 フィルが見たマドレーヌという子どもは、どちらかというと内気な少女のように見えた。いや、両親を亡くしたばかりだからそう見えるのかも知れない、と思った。身よりのないかの女に、少しでも優しくしたい・・・フィルはそう思った。二人はすぐにうち解けた。
 フィルは実際の年齢よりずっと大人びた子どもであった。マドレーヌはごく普通の4歳児である。ふたりは、まるで兄と妹のようであった。この組み合わせを、まわりの人たちはほほえましく思った。
 マドレーヌは、あまりにも幼かった。かの女は、まもなく、ここに来るまでのことを忘れ去った。そして、優しいステラをいつのまにか自分の母親だと思いこんでしまったのである。ステラは、自分の娘を失っている。女の子から<ママン>と呼ばれることで、かの女自身、娘が戻ってきたような気分になっていたのである。
 マドレーヌは、みなに<マディ>と呼ばれ、誰からもかわいがられた。
 やがて、シャロンさえ、マドレーヌを自分の子どもとして扱うようになった。父親のように慕われているうちに、だんだん情が移ってきたのである。
 マドレーヌがやってきて、ステラの表情に明るさが戻った。かの女は、ずっとふたを開けずにいたピアノの前に座った。いつの間にか、3人は仲良く連弾するようになった。シャロンは、そのほほえましい風景を見たくて、しょっちゅうステラの部屋に来るようになった。
 ・・・もう、大丈夫だ・・・シャロンは思った。
 1883年秋、一家はパリに戻った。
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