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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第71章

第1285回

 シャルロットは、ウラディーミルが指輪を見て逆上したことを話した。彼は、『ぼくは、きみのためにこんな体になった。きみはこんなぼくを捨ててあの男と一緒になるのか?』というようなことを口走りながら、指輪を窓の外から投げ捨てた。シャルロットは、その彼を振り切り、指輪を捜しに行った。指輪は見つからなかった。かの女は、失意のうちに列車に乗り、ここにやってきた。かの女は、ウラディーミルの部屋には一度ももどらなかった。そして、一人きりになったウラディーミルは、屋上から飛び降り自殺を図った。彼は、意識不明の重体だという。
 そこまで聞き終えると、大人たちは長いため息をついた。
 口を開いたのは、ゴーティエだった。「・・・もし、彼が助かったら、彼を選ぶのか?」
 シャルロットは力なく答えた。「コルネリウスの指輪は、お父さまの形見なんだそうです。彼が生まれたとき、彼のお母さまの指のサイズで作らせた指輪。ご両親は、かの女の妹のところにいずれ生まれると思われる女の子のために、指輪を作らせたそうです。シャルロットという名前を持つであろう、その女の子のために・・・」
 シャルロットの目に涙がたまった。
「・・・でも、そのシャルロットという女の子は、すでにこの世にはいません」シャルロットは悲しそうに続けた。「ドクトゥールとアレクサンドリーヌ夫人は、自分たちの娘はこの世にいないと言いました。彼らの子どもは、アレックスただ一人だと」
 シャルロットは、大人たちが沈黙を続けているので、涙声で話し続けた。「だとすると、コルネリウスは、誰に指輪を手渡したんでしょう? 彼の本当のフィアンセは、すでにこの世にはいないのに・・・」
 それを聞くと、エマニュエルも涙ぐんだ。
「そして、わたしは、大切なその指輪を失ってしまった」シャルロットは苦痛で身をよじった。「ああ、わたしはなんということをしてしまったの? 彼にとって---わたしにとって、大事な宝物だったのに!」
 それでも、彼らは何も言わなかった。
「ゴートおじさま、わたしは、いったい誰なんですか?」シャルロットは泣きながら訴えた。「もしご存じなら、教えてください」
 ゴーティエは、シャルロットが苦しんでいるのに心を動かされかけていた。
「おじさま、わたしには、彼の愛を受ける資格があるんですか?」シャルロットは涙ぐんだ目で彼の目を見つめた。
 ゴーティエは、若い頃クラリスに話しかけたような口調で言った。「きみは何も悪くないよ」
 シャルロットはゴーティエのブルーの目に、慈しみを見いだした。まるで自分の娘を見るときのように彼はかの女を見つめ、優しく両手を包み込んだ。
「彼を愛しているんだね?」ゴーティエは優しく訊ねた。「自分の命よりも、もっと大切に思っているのかい?」
 シャルロットはうなずいた。
「きみは、彼のために死ねるか?」
 シャルロットはうなずいた。
「・・・ウラディーミルくんにも、それができたんだよ」ゴーティエが言った。「そして、コルネリウスは、きみのためにそうしたことは一度もない。それでも、きみは、コルネリウスを選ぶのか?」
 シャルロットはもう一度うなずいた。
 ゴーティエは何かをつぶやいた。そして、彼は目を閉じた。
 しばらく考え込んだあと、彼は目を開けた。
「昔、わたしは、クラリスと同じような会話をしたことがある」ゴーティエはゆっくりと話し始めた。「当時、クラリスはロベール=フランショームと出会ったばかりだった。1894年の夏休み、彼らは、わたしの家で過ごした。エマニュエルも一緒だった。あの日、クラリスは、エマニュエルと一緒に馬で出かけた。馬が急に暴れ出し、エマニュエルは命がけでクラリスを助け出した。クラリスは無傷だったが、エマニュエルは落馬してけがを負った。あの日、クラリスは、エマニュエルが自分を愛していることを初めて知ったんだ・・・」
 エマニュエルは目を閉じた。
「しかし、あのとき、クラリスが愛していたのはロベールの方だった」ゴーティエが続けた。「かの女は、命がけで自分を助けてくれた青年に対し、その厚意に感謝はしていたが、彼の方をより愛するというところまでは行かなかった。もっとも、エマニュエルが、クラリスに対して『自分はこんなにしてあげたんだから、愛してくれ』と言ったという話は聞かなかったがね」
 エマニュエルは首を振った。『そんなこと、口が裂けたって言うものか!』
 そして、全員にわかるくらいゆっくりと唇を動かした。『本当に愛しているなら、かの女が助かるためなら、自分が死ぬことだっていとわない。死んでも悔いはないはずだ。もし、《自分は、きみのためにこんなことをしてあげた》と言うようなら、それは、愛ではない』
 ゴーティエは、ゆっくりとうなずいた。「そのとおりだ」
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