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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第71章

第1290回

「・・・で、いったい何の用かしら、わたしたちをからかいに来たのでなければ」ベアトリスは辛辣な口調で言った。
 コルネリウスはため息をついた。「ベアティ、ぼくたちは協力できるのではないだろうか、もし、お互いに好きな人がいるのであれば」
 ベアトリスはにらんだまま首をかしげた。「わたしは、あなたを信用できない」
 シャルロットは二人を交互に見た。「何があったの?」
「敵の敵は味方ではないということらしい」コルネリウスは簡潔に言った。
「みんな敵よ。パパも、あなたも」ベアトリスが言った。「パパがまた何か言ったの?」
「きみと結婚して、ここで医者をして欲しいと」コルネリウスが言った。「もしそうしないのなら、ぼくの将来をめちゃめちゃにすると」
 ウラディーミルは口をはさんだ。「彼は---ドクトゥール=アンドレは、コーネリウスが必要なの? それとも、ベアトリスの夫として医者が必要なの?」
「恐らく、どちらもでしょうね」ベアトリスが答えた。
「前者はどうすることもできないが、後者は何とかする」ウラディーミルが言った。「もし、ベアトリス=シャルパンティエに医者のご主人が必要だというのなら、ぼくが資格を取る。ぼくはウラディーミル=シャルパンティエになる」
「そんな簡単な問題じゃないわ」ベアトリスが言った。
「ぼくだって、ザレスキー一族だ。ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーと何分の一かは同じ血が流れている。全く適性がないとは言えないと思う」ウラディーミルが言った。
「じゃ、わたしのために医者になると?」ベアトリスは、今の提案を真面目に受け止めてはいなかった。
「この人なら、そうするんじゃないかな」コルネリウスが言った。「ザレスキー一族は、意志の強い人たちの集団だ。それに比べると、フランショーム一族はどうしようもない連中さ。ぼくは、ここを出ると医者にはなれないというドクトゥール=アンドレの圧力に屈しようとしているほど情けないやつだ」
「で、屈するの?」ベアトリスの口調には軽蔑が混じっていた。
「もちろん、その申し出はお受けできませんと答えたよ」コルネリウスが言った。
「何があっても応じて欲しくない」ウラディーミルが言った。「ベアトリスをあなたに渡すくらいなら、かの女をこの手で殺して、自殺する。何があっても、かの女はあなたには渡さない。これは宣戦布告だよ、コーネリウス」
 コルネリウスはため息をついた。「そうか、どうしても同盟を結ぶ気はないらしいね、きみたちには」
「ぼくたちは、ぼくたちの道を行く」ウラディーミルはそう言うと、急に表情を軟らかくした。「それよりも、だ」
 そう言って、ウラディーミルはシャルロットを見た。「きみは、彼に話があるんじゃないのか?」
 シャルロットは下を向いて口ごもった。「いいえ」
 ウラディーミルはコルネリウスに言った。「あなたは、かの女に何か言わなくちゃならないことがあるんじゃないですか?」
 コルネリウスは小さい声で言った。「かの女と二人きりで話がしたい」
 ウラディーミルは彼をにらみつける真似をした。「かの女は、ぼくがベアトリスにプロポーズする場に居合わせた。だから、ぼくは、かの女がプロポーズされる場に同席したい」
 コルネリウスは青ざめた。「ぼくは、かの女にプロポーズするつもりなど・・・」
 それを聞き、シャルロットは青くなり、手をきつく握りしめた。
「いや、プロポーズして欲しい」ウラディーミルは言った。「約束したよね、指輪はかの女に返すと」
 コルネリウスはしばらくウラディーミルを見つめていた。それから、彼はポケットを探り、指輪をとりだした。
 シャルロットはそれを見て目を丸くした。「あなたが持っていたの?」
 コルネリウスはうなずいた。「ぼくの名前があったのでね」
 そして、彼はかの女の手を取った。「目を閉じてくれないか?」
 シャルロットは言われるままに目を閉じた。
「かつてぼくがこれを手渡したとき、きみにこう言ったよね。もしぼくが嫌いになったら、この指輪をはずしなさいと」コルネリウスは左手を取ったまま言った。「この指輪を見たとき、ぼくは思った。これは、きみの拒絶なのだと」
 それを聞き、ウラディーミルの体がびくっと震えた。彼はコルネリウスの言葉を遮ろうとして、あわてて口をつぐんだ。自分が出る幕ではないと悟ったからだ。
 シャルロットも思わず目を開け、コルネリウスの目をじっと見つめた。二人は緊張したまましばらく見つめ合った。
「・・・そうなのか?」コルネリウスの手が汗ばんできた。「どうか、この場ではっきり答えて欲しい」
「わたしには、あなたしかいません」シャルロットは答えた。
 コルネリウスは、しもやけができている指にそっとキスした。かの女が雪の中、一晩中指輪を探していたという看護師たちの噂は本当だった。
「ぼくの心は決まっているよ」彼はもう一度小指に指輪をはめた。そしてその手を優しくさすりながら言った。「いいかい、もう決して手放してはいけないよ」
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