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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第127回

 馬車がパリの屋敷の門の前に止まった。
 最初にシャロンがおり、ステラが降りるのに手を貸した。
 続いて降りたフィルは、こわれた建物を見てびっくりした。フィルは、次にマドレーヌが降りるのを手伝った。マドレーヌはフィルの表情に驚いたが、壊れた建物には見覚えがあった。マドレーヌはごく普通に馬車から降りた。
 フィルは、前に聞いた話を思い出していた。
『・・・パパの二番目の子どもは、女の子だった・・・。でも、かの女は、小さな天使になって、天国に行ってしまった・・・。かの女は、7年前の3月にパリで生まれたの・・・ほんとうにかわいい子どもだった・・・。でも、ある晩、おうちが燃えて・・・かの女はとなりの部屋にいたの・・・わたしは、かの女を助けることができなかった・・・』
「・・・この建物が・・・」フィルは、思わず口走った。『・・・そうなんですね・・・』という言葉を引っ込めるため、彼はあわてて口をつぐんだ。しかし、手遅れであった。
 ステラは、はっとして立ち止まった。かの女は、見えない目で左側の建物を見つめた。その目には、大粒の涙があふれ出した。
 ステラの手を取ったままのシャロンの手も震えた。
「・・・さあ、家に入ろう・・・」シャロンが言った。
 彼は、妻の反応にショックを受けた。もう大丈夫だと思ったのに・・・彼はそう考えていた。
 ステラは、動こうとしなかった。
「・・・家に行こう、ステラ」シャロンが促した。
 フィルが反対側の手を取った。「行きましょう。ここが、パリのおうちなんですね?」
 マドレーヌは、ステラのスカートを引っ張った。かの女は『はやく行きましょう』とは言わなかった。
 しかし、全員に促されたステラは小さくうなずいた。かの女は、やっと歩き出した。
 フィルは、初めて見る壊れた建物にショックを受けていた。火事のあとで、一部は修理され、建物として機能しているようであったが、門に近い部分が一部、壊れたまま残されていた。ブロックは吹き飛ばされて粉々になっていて、残った部分も真っ黒に焦げていた。
 ここに、姉がいたのだ・・・。そして、母は、かの女を助けることができなかった・・・。
 でも、これじゃ、無理だ。母じゃなくても、誰にも助けることはできなかっただろう・・・。
 助けられなかったとしても、母の責任じゃない。
 そして・・・父も苦しんでいる。
 こんな風に自分を苦しめ続けている母の姿を見て、かの女をここに連れて来たくない、と思った父の気持ちが、今のフィルにはわかった。だから、あのとき---いつかの朝食の時間だ---パリ行きにあんなに反対したのだ・・・。
 こんなに苦しむくらいなら、どうして、ここをちゃんと直さないのだ?
 フィルは泣き出しそうになっていた。しかし、自分が泣いてはいけないのだ、と子どもながらに思った。
 彼は、これ以上母親を苦しめたくはなかったのである。
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