FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第130回

 フィルは、ずっと家庭教師のロストフスカ嬢について勉強していた。彼はずばぬけて賢い子どもだったが、実際に学校に行く年齢になったときには、すでに小学校課程以上の学習は終了していた。彼の教育問題も、シャロンとステラの課題だった。
 シャロンはどんな形であれ、学校へ行かせるべきだと考えていた。
 一方フィルは、絶対に母親のそばを離れない決心をしていた。小学校へ行っても、学ぶものは何もない、だから、ここにいたい・・・と。
 ステラは間に挟まった格好になってしまった。かの女自身は、フィルがそばにいる生活に慣れきっている。ただ、このままこうしていることもできない。いずれは、フィルも学校へ行かなければならないだろう。それが彼のためだとは頭では理解していたが、実行する勇気がなかった。
「・・・じゃ、こうしよう。フィルが10歳になったら、パリで勉強する・・・どうだろう?」シャロンが提案した。
 ステラは黙って聞いていた。フィルは母親の左手を握っていた。
「わたしも、子ども時代は、家庭教師について勉強していた。だが、10歳の時、スイスを出て、パリ音楽院に入学した。10歳というのは、けじめとしては、ちょうどいい年齢じゃないのかな?」
 ステラはうなずいた。「・・・そうですね・・・10歳なら、もう、大人よね。自分の将来を、自分で決めてもいい年齢かも・・・」
 フィルは、母親の手を強く握りしめた。
「ぼくは、パリには行きたくありません」フィルが言った。
「別に、パリでなくてもかまわないけど、そろそろ自分のやりたいことを考えてもいい年齢だよ、フィル」父親が言った。「あなたは、何がしたいの?」
 フィルにはわからなかった。どの勉強もそれなりにできた。特別好きな勉強というものはなかった。
「でも、この家を継ぐなら、それなりの勉強は必要だよ」シャロンが続けた。
「・・・フィルが、この家を継ぐと決まったわけじゃないわ」ステラが口をはさんだ。「あなたには、もう一人男の子がいるでしょう?」
 シャロンは、突然のことに真っ青になった。まさかステラにそんなことを言われるとは思っていなかったのである。
「でも・・・」シャロンは思わず口ごもった。
「そのことは、後で相談しましょうか。今は、フィルの問題だわ」ステラが言った。
 シャロンは、ステラの方を見た。『でも、フラニーは息子を手放すとは思えない・・・』彼はそう言おうとしたのだが、そう言っていいかどうかためらったのである。それを言うと、妻に内緒でかの女に会ったことがばれてしまうからであった。
 フィルは、不服そうな顔をしてシャロンを見つめていた。
「フィル、まさか一生こうやっているわけにはいかないのよ」ステラが息子に言った。「あなたにも、自分の人生があるのよ。そろそろ、それを考えなくてはならないわ」
「・・・でも、ぼくは・・・あなたのそばにいたい・・・」フィルは思わず涙ぐんだ。「・・・ずっとあなたを守るって約束したじゃない・・・ぼくは、約束を守らなくては・・・」
 シャロンは、その言葉を聞いて思わずほほえんだ。彼は、ステラの右手を取った。
「ずっとかの女を守るのは、夫であるわたしの役目だよ、フィル」
 ステラの顔がぱっと赤くなった。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ