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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第74章

第1336回

 彼らは、全員同じことを考えたに違いない。
 ド=グーロワールは、クーデターによってサント=ヴェロニック校オーケストラ(通称ソサイエティ)の指導者になった。約110年続くソサイエティの歴史上、このような経緯で指揮台にのぼった人は誰もいない。
 8年前、当時ソサイエティの指導者だった故ルネ=ペルメーテルは、突然指導者の地位を解任された。その経緯を知るものは、今では校長と教頭だけになってしまい、ほかに真相を知るものはいない。生徒たちに愛されていたペルメーテルの突然の失脚は、皆を動揺させた。彼の次に指揮台の主となったラザール=ドランドは、これまで空文化されていたソサイエティの規則を盾に、メンバーを自分の言いなりにしようとした。当時4年生だったソサイエティの弦楽器部門のトップたち4人(いわゆる<ドニ=フェリー=カルテット>)は、ドランドに逆らってオーケストラを追放された。その4人を中心として、オーケストラからドランドを追放するという目的のため、秘密組織が作られた。<ル=グループ=トレーズ>という13人組は、アグレスール=ベルリオーズをリーダーとしたグループだった。彼らは、イエズス=キリストと12人の弟子たちの変名を持ち、変名のみで知られていたため、リーダー以外の12人が誰なのか、一般の生徒は誰も知らなかった。ただ、ドニ=フェリー=カルテットの4人が含まれていると思われていたに過ぎない。実際は、彼らの内二人だけがメンバーだったのだが・・・。
 6年前、サント=ヴェロニック校に編入されたシャルロットは、ソサイエティの規則違反だとは知らぬままピアノを弾き、オーケストラに参加することを拒否された。そのできごとをきっかけとして、ル=グループ=トレーズはドランドを追放するために動き出した。ソサイエティのメンバー全員が、このできごとに憤慨し、ドランドの謝罪を要求して立ちあがったのである。ところが、ル=グループ=トレーズの本当の目的は、ラザール=ドランドの追放のみならず、ソサイエティの崩壊だということを知ってしまったシャルロットは、当時サント=ヴェロニック校にやってきたばかりの自分の担任アルフレッド=ド=グーロワールにその事実を打ち明ける。ド=グーロワールは校長と相談し、二人は、オーケストラのために、生徒たちとは別に動き出す。かくして、生徒たちと先生たちは全く別の意図を持って11月9日(ブリュメール18日)を迎えることになる。
 1912年11月9日。この日は、サント=ヴェロニック校の生徒たちに<ブリュメール18日のクーデター>として記憶される一日である。二つのシナリオによって同時に二つの反乱劇が行われ、混乱したホールの中でアグレスールは負傷し、失明してしまう。一方、クーデターの方は校長により鎮圧され、新しい指導者の地位にはド=グーロワールがついた。こうして、現在のソサイエティの指導体制ができたのである。
 ド=グーロワールは、アグレスールの負傷について責任を感じ続けていた。彼は、目が見えなくなったアグレスールを学校に復学させることに尽力し、大学時代の友人を通して学んだ点字を彼に教えた。点字による教科書や楽譜を入手することで、アグレスールは、もう一度自分の夢に向かってスタートすることができた。アグレスールは大学には進学しなかった。そのかわり、ド=グーロワールは、指揮者になりたいと考えていたアグレスールのために、シャルロットの義父であるエマニュエル=サンフルーリィと連絡を取る。
 オーケストラの指導をライフワークと決めていたエマニュエルには、弟子といえる人は一人しかいない。弟子を取らないと明言していたエマニュエルの元に、マネージャーとして勝手に押しかけてきたミシェル=トゥーサンである。トゥーサンは、エマニュエルの付き人をしながら、彼の技術を観察することで自分の勉強をしていた。いつのまにか、トゥーサンはエマニュエルのただ一人の弟子としてエマニュエル本人のみならず周りにも認められていた。アグレスールは、義理の娘シャルロットの友人、という立場でエマニュエルの家に住み着き、今ではトゥーサンにも弟のようにかわいがられるようになっていたのである。エマニュエルが倒れて以来、アグレスールは事実上はトゥーサンの弟子のようなものだったが、それでも二人ともエマニュエルの弟子であると思っていた。シャルロットのアドバイスでエマニュエルの唇を読むことを覚えたトゥーサンと、エマニュエルの唇を触ることで意思疎通を図るアグレスールは、エマニュエルにとって大切なパートナーだったのである。
 アグレスールは、アデライドと結婚したあとも、オート=サン=ミシェルのエマニュエルの家に同居していた。エマニュエルが倒れたあとも、オート=サン=ミシェルに留まり、いわば<留守番>をしていたのだが、エマニュエルが兄と共にシャンベリーに行くことになると、自分たちもシャンベリーについて行ったのである。妹を亡くして以来一人暮らしをしていたゴーティエは、いきなり4人の同居人を持つことになった。ゴーティエは、奇妙なこの一団を喜んで迎え、家族同様に接した。
 3日前、アグレスールは、サント=ヴェロニック校の校長から突然手紙を受け取った。その手紙は何度か転送されて彼の元に届いた。さすがの校長も、アグレスールが現在どこに住んでいるかは知らなかったのである。もちろん点字を知らない校長からの手紙を、アデライドが代読した。その手紙を読み、アグレスールは校長に電話をした。こうして、彼らはミュラーユリュードに戻ってきたのだった。アグレスールとしては、突然の申し出を断わるつもりでやってきたのだった。電話で断わるのも失礼だと思ったからである。しかし、校長からその申し出の理由を聞かされると、返事を保留するしかないと思った。彼らは、申し出についてじっくりと考えるため、ラ=メーゾン=ブランシュを訪れたのだった。
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