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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第74章

第1339回

 ド=グーロワールはうなずいた。そうだ、彼ならそうする。この心優しい青年は、苦悩している友人を見捨てることはできないのだ。
 しかし、アグレスールの方は首をかしげていた。「・・・その話、何だか腑に落ちないんだ。何かがおかしいと思わないか?」
 サルヴァドールはにやりとした。「さすがはアグレスールだな。そうだよ、一つだけまだ説明していないものがある。マルフェの例の手紙の行方だ」
 そして、サルヴァドールは言った。「プティタンジュとシレーヌは、アメリカ人たちと一緒に暮らしていた。そこに来る手紙は、当番の生徒が各人に配るシステムになっていた。マルフェの手紙は、あまりにも薄かったので、ほかの手紙に紛れ込んでシレーヌの手に渡っていた。そして、シレーヌは、その手紙をプティタンジュに渡そうとして、忙しさに紛れてそのままにしていた。なんせ、薄い手紙だったから、たいして重要なものではないだろうとかの女が考えても無理はない。現に、たいした手紙ではなかったのだし。でも、プティタンジュは、その手紙を待っていた。いや、プティタンジュは彼から手紙を届くのを待ち続けた。時期が時期だから、自分から手紙を書くのを控えて、彼が手紙を受け取れる状態になるまで待とうと思った。しかし、いつまで待っても手紙は届かなかった。そして、やっと届いた手紙の内容が、あれだ。かの女がどんなにショックを受けたか、想像がつくだろう?」
 アデライドはうなずいた。
「プティタンジュは、その手紙を持ってシレーヌの部屋に行った。そのとき、シレーヌはたまたま部屋を開けていた。かの女が戻ってくるのを部屋で待とうとしていたプティタンジュの目に、見覚えのある筆跡が飛び込んだ。ずっと待ち続けたその手紙が、どうして友の元にあるのだ? 二人は口論になり、ついにプティタンジュはその屋敷を飛び出した。やがて、修行を終えたシレーヌも屋敷を去った。かの女は、アルゼンチンでステージに立つため船に乗り、海難事故で命を落とした」
 それを聞き、三人はびっくりしたようにサルヴァドールを見つめ、一様に肩を落とした。
「そして、プティタンジュは、アメリカの親戚の元に身を寄せた。ところが、その家の息子がかの女に夢中になってしまった。かの女は、彼に諦めてもらうため、家を出たが、青年は彼を追いかけてフランスにまでやってきた。その青年は、ステージから落ちてきたライトの下敷きになりかけたかの女を助け、大けがをした・・・」サルヴァドールの言葉に、ド=グーロワールはうなずいた。
「・・・だが、彼は、運び込まれた病院で、担当の看護師だったベアトリス=シャルパンティエと恋に落ち、ついに駆け落ちしたらしいね」ド=グーロワールが続けた。
「そうなんですか?」サルヴァドールには、それは初耳だった。コルネリウスからの最後の手紙が届いたのは、約1ヶ月前のことだ。その時点では、彼らがこうなるとは予測もつかないことだった。
「マルフェも、シャルロットのあとを追ってパリに行ったそうだ。だが、今ごろは、シャンベリーに向かっているんじゃないかしら?」ド=グーロワールは続けた。
「シャンベリー・・・?」アグレスールは眉をつり上げた。
「きみは、ニュースを知らないのか?」ド=グーロワールも驚いたように言った。「エマニュエル=サンフルーリィ氏が、再度倒れられたらしい」
 それを聞くと、アグレスールはめまいがしたようにふらついた。サルヴァドールが慌てて彼を支えた。
「・・・帰らなくては」アグレスールはきっぱりと言った。「今すぐに」
 アデライドもうなずいた。
「校長先生に返事をしてからだ」サルヴァドールが言った。「あの話、引き受けると言うんだぞ、いいね?」 
 アグレスールとアデライドは、別れの挨拶もそこそこに、その場から去っていった。
「・・・どうやら、師弟関係はうまくいっているようだな」ド=グーロワールは彼らの後ろ姿を見ながらつぶやいた。「サンフルーリィ氏は弟子を取らない主義だと聞いていたから、たとえプティタンジュの口添えがあったとしても、誰かのめんどうを見るとは思えなかった。そうでなくても忙しい人なのに、ああいう人を弟子にしてくれるのかな、と・・・内心不安ではあった。だが、今の様子を見る限り、彼はアグレスールをかわいがっていたようだね」
「マエストロの亡くなった息子さんと、ほぼ同年代だと聞いています」サルヴァドールも言った。
 ド=グーロワールはうなずいた。「よかった。ぼくの選択は間違っていなかった。これで思い残すことはない、とまでは言わないが、安心してこの地を離れることができそうだ」
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