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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第74章

第1341回

「マルフェの本当の行方か?」ド=グーロワールが訊ねた。
 サルヴァドールはにやりとした。「そうですね、それも気になりますが・・・。そうじゃありません。あなたのさっきの言葉ですよ。キーパーソンはヴィトールド=ザレスキーだと。この喜劇(コメディー)に、彼はどんな役割を果たしたのですか?」
「なるほど、<神曲(コメディー)>か。いい表現だな」ド=グーロワールは、サルヴァドールが選んだ言葉を反芻した。「・・・ヒロインがベアトリーチェのほうだったら20点満点をやったのだがな」
 サルヴァドールは苦笑した。「そこまで考えて使った言葉ではなかったのですが・・・」
「わかってるがな・・・どうやら、これは、教師の悪い習性らしい」ド=グーロワールも苦笑した。そして、彼は咳払いした。「・・・古い話になるがね。昔、ミュラーユリュードという町のはずれに、ちいさな女の子とその幼なじみたちが一緒に暮らしていた。少女は、自分たちを主人公とした小説を書いた。少女と4人の幼なじみたちが出てくるそのストーリーは、形を変えて5年後に復活し、サント=ヴェロニック校演劇コンクールの演目となった。そればかりではなく、彼ら自身がその劇を演じた。アニー=ド=リリーズ。アラン=ドルスタンス。マクシム=デュラン。こう聞けば、ぼくが何を言いたいのかわかるか?」
 サルヴァドールは目を丸くした。「まさか・・・」
「そうだ。<秋のファンテジー>は、彼ら自身のストーリーだったのだ」ド=グーロワールが言った。「彼らが名演技をしたのは当然だ。彼らは、自分たちを演じたのだから」
 サルヴァドールは言葉も出ないくらい驚いていた。
「以前、プティタンジュが言ったことがある。あの劇の本当の主人公は、アニーとマクシムだと。かの女は、ずっとマルフェを愛していたんだよ」ド=グーロワールが言った。「ドニもそれを知っていた。認めたくはなかっただろうがね。町の演劇祭が終わった直後、ドニはプティタンジュを雨の中、学校まで連れ帰った。そして、かの女は肺炎を起こし、学校を休んだ。彼は責任を感じ、毎日、寮のかの女の部屋の下に様子を見に行った。校則のため、男子生徒は、女子寮にはいることはできなかったから。そんなある日、コンクールが近づいたかの女は、焦りのためか、熱がある体でピアノの前に座った。しかし、その音色は途中で止まった。心配した彼は、とっさに、近くにあった木に登り、かの女の様子を見に行った・・・」
 サルヴァドールは顔をしかめた。その事件のことは今でも良く覚えている。しかし、なぜ、今、その話をするのだろう?
「そして、彼は木から降りてこなかった。途中の枝に座って演奏を聞いているうちに、つい、居眠りをしてしまったからだ。ところが、彼が門限に遅れたことで、事件は思わぬ展開を見せることになる。彼は、取り調べをした教頭の前で、つい口を滑らせ、木のことを話してしまったからだ。その木の上にある部屋の住人も、門限の点呼のさい、部屋から出てこなかった。もちろん、かの女は熱を出して寝ていたのだから当然だった。しかし、教頭は、かの女の言い分を認めず、地下牢に入れてしまった」
 サルヴァドールは手を拳に握りしめていた。
「そのときに、舞台裏で行われていたもう一つの話を聞かせよう。勇敢な騎士の話を」ド=グーロワールは言った。「彼は、危険を顧みずに、地下牢に行った。そこで彼が見たものは、毛布にくるまって震えながら、ベッドをピアノに見立てて、目を閉じて指を動かしていたちいさな少女の姿だった。彼は、何があっても少女をそこからだそう、ピアノコンクールに出させようと誓った」
「そして、あなたは、サン=ティレールに掛け合って、あの片道切符を手に入れたんですね?」サルヴァドールが言った。
 ド=グーロワールは首を横に振った。「それは、買い被りだよ。ぼくにはそんな力はなかった」
「ぼくは知っています。プティタンジュを地下牢に迎えに行ったのは、あなただったんでしょう?」
 ド=グーロワールはうなずいた。「その通り。だが、わたしは迎えに行っただけだ」
「じゃ、誰が・・・?」
「すべてのシナリオは、あの勇敢な騎士が書いたんだよ。彼は、かの女のあの姿を忘れることはできなかったからだ。そして、自分は何があってもかの女を守ると誓った彼は、卒業すると、周囲の驚き、とまどいをよそに陸軍士官学校の門をたたいた。かの女の騎士として、自分がすべきことをしようとしたんだな」
 サルヴァドールは目を見開いた。
「大佐になったんだって、彼・・・?」ド=グーロワールは優しく訊ねた。「恋は人を変える力があるって本当なんだね?」
「まさか・・・そんなことって・・・」サルヴァドールは絶句した。
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