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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第75章

第1353回

 16になったら・・・。そう、その言葉もこれまで何度も聞かされていた。厳密に言えば、まだ16にはなっていない。このメダイが意味するところが正しかったとしても、あと2週間はある。
「思えば、きみの両親も、両親の愛情をたくさん受けて育ったわけではなかった」そして、視線をシャルロットからスティーヴン、コルネリウスと順番に移動した。自分の弟妹たちの子どもたちへと。「・・・きみたち全員もか・・・?」
「ぼくは違う」オーギュストが言った。「たとえ、《生物学的には》本当の両親ではなかったかも知れないけど、ぼくはクラリスおばさまにたくさんの愛情を注がれて育った」
 スティーヴンもうなずいた。「ぼくだって、義理の両親から本物の愛情をもらいました」
 シャルロットも泣きながらうなずいていた。そう。この自分も、たくさんの人たちから愛されて成長した・・・。
 その彼らを、コルネリウスは冷ややかなまなざしで見つめていた。自分だけはそうではない。彼はそう思った。
 ゴーティエはふっとため息をつき、視線をベッドに横たわっているエマニュエルに向けた。
「わたしは、きょうだいの中で最初に生まれた。そして、最後まで生き残ってしまった」ゴーティエは寂しそうにそう言い、エマニュエルを見つめたまま話し出した。「・・・これは、きみたちにとって初めて聞く話ではないかも知れない。しかし、はじめから話させて欲しい」
 そして、ゴーティエは目を閉じた。
「・・・わたしの祖父フランソワ=ゴーティエ=ド=ティエは、小さい頃から現実離れしたところがある人間だったらしい。彼は、生涯、この屋敷の経営について興味を持ったことは一度もなかったに違いないと思うくらいの遊び人だったそうだ。彼は、屋敷のことは全面的に人に任せ、自分は、まあ、その・・・ありとあらゆる楽しみにふけった。彼は妻の持参金まで使い尽くしたと聞いている。そんな父親を見て育った父のステファーヌ=フランソワが家のことなど考えるはずもない。音楽の才能があった彼を、彼の両親はパリに連れて行き、音楽院に入れた。祖父は、自分の息子が経営や法律を学ぶべきだとは思わなかったらしい。何とまあ、現実離れしていたことか・・・」ゴーティエはそう言って苦笑した。「・・・その意味では、やはり音楽の才能があった息子を後押ししたスタニスラス=ド=ルージュヴィル公爵と似ていなくもないが、一番の違いは、音楽院に入学した息子が二男だった公爵の場合とは違い、たった一人の男の子を音楽院に入れた点だろう。その証拠に、公爵は、自分の跡取息子が亡くなった直後、二男を退学させている。その意味では、公爵の方が現実的な人間だったということだな」
 スティーヴンは軽くうなずいた。
「・・・そして、父はパリで暮らした。彼のパリ時代のことはあまりよく知らない。ただ、漠然と、音楽で身を立てようと思ってはいたらしい。卒業後は、友人たちと室内楽---具体的に言えばピアノトリオだろう---をするつもりでいたようだ。そんなある日、彼は仲の良いその二人と一緒に下宿に戻る途中、あるできごとに遭遇した」ゴーティエは言った。「彼が見たものは、浮浪者たちと若い娘だった。女性は、彼らからバッグを奪われようとしていた。彼はとっさに彼らのトラブルに割り込み、彼らからバッグを奪い返した。その女性は、自分のために怪我をした彼を医者に連れて行き、馬車で下宿までおくった。その一件はそれで終わらなかった。二人は恋に落ちてしまったからだ。その女性はイギリス人で、パリの寄宿学校の生徒だった。規律の厳しいその学校からかの女がどうやって抜け出して逢い引きしたのかはわたしにはわからない。とにかく、二人は何度か会ううち、結婚しようと思ったらしい。ところが、この二人の関係が学校に知れ、女性は強制的にイギリスに送還された。当然といえば当然の処置だった。かの女には、イギリスに、小さい頃から婚約していた男性がいたからだ」
 スティーヴンはうなずいた。その話は、当事者の女性の方から何度も聞かされていた。
「父はかの女を追ってイギリスに行った。そしてかの女の父親に会い、結婚の承諾を得ようとした。しかし、かの女の父親は言った。『うちの娘には、小さいときから、婚約している相手がいます。かの女は伯爵夫人になる運命なんです。あなたには、かの女の婚約者以上のものをかの女に差し出すことが出来ますか。地位とか、財産とか・・・?』そして、彼は言った。『もし、あなたに、かの女にふさわしい何かがないのなら、この場からお引き取り下さい。かの女は貧乏貴族の妻ではなく、伯爵夫人という地位が似つかわしいのです』・・・そのとき、彼は初めて自分が没落貴族の出身だと意識した。彼は、かの女の父親の蔑むような視線を生涯忘れなかった。しかし、彼は、向上心のある人間ではなかった。彼は絶望してイギリスを去り、自暴自棄の生活を送った・・・」
 スティーヴンは口をはさんだ。「もし、そのとき、相手の女性が身ごもっていたら、彼はどうしたと思いますか?」
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