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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第75章

第1355回

 ゴーティエはめまいを起こしたようにその場にくずおれた。
 コルネリウスはとっさに彼に駆け寄り、手の脈をとった。「・・・大丈夫だ」彼はスティーヴンに向かってそう言った。そして、ゴーティエの体を優しく揺さぶった。
 ゴーティエは目を開け、低いうめき声を上げた。
「ごめんなさい・・・まさか知らなかったなんて・・・」スティーヴンも彼に駆け寄り、そっとその手を取った。
 ゴーティエはゆっくりと首を振った。「・・・今日は、きみたちを驚かせるはずだったのに、自分の方が驚くことになるとは思わなかった・・・」
 シャルロットは震える声で言った。「・・・まだ、話が続くんですか?」
「これからが本題だ」ゴーティエは低い声で言った。そして、二人の医者の卵たちに抱き起こされ、椅子に座った。「・・・座ったまま話を続けさせてもらうよ。また倒れることになったら、迷惑だろう?」
 そして、彼は優しくシャルロットにほほえみかけた。「きみも座るといいよ、ユーフラジー」
「今度は、わたしが驚く番なんですね?」シャルロットはそう言いながら、エマニュエルの枕元にあった椅子に座った。その様子を見て、ほかの人たちも空いている椅子を捜し、エマニュエルに近い位置までそれを運んでからそれぞれ腰かけた。
「・・・どこまで話したかな? そうだ、父が初恋の人と別れたところまでだったね」ゴーティエはそう言うと、まじめな顔に戻った。「父はパリに残り、自暴自棄な生活を送った。やがて、彼は故郷に戻ることを選んだ。いや、選ばざるを得なかったというのが正解だ。そして、故郷の惨状を見て、ショックを受けた。彼には、経営の才能はないし、その情熱もなかった。だから、彼は政略結婚・・・というか、金持ちのお嬢さんと結婚するしかないと思った。そこに現れたのが、ソフィー=ド=サン=メラン伯爵令嬢だった。金持ちで家柄は良かったが田舎で育ったお嬢さんにとって、ハンサムで都会的な青年は新鮮に見えた。ちょっと年がいっているが、洗練された物腰の紳士は魅力的だった。かの女は一方的に彼に夢中になり、父はかの女を利用しようと考えるに至った」
 そして、びっくりしていた若者たちに、ゴーティエは笑いかけた。「・・・政略結婚とは、そんなものじゃないのかな?」
「彼は、かの女を愛していなかったんですか?」シャルロットは目をぱちくりさせた。
「たぶん」ゴーティエが答えた。「だが、かの女は彼を愛していた。だから、二人が結婚したあと、彼は幸せだった。かの女は彼に尽くし、さらに同じ音楽の趣味を共有していたからね。母は絶えず身ごもっていて、最初の子どもだったわたしのほかに2人の娘をもうけた。でも、皆、生まれてすぐに死んでしまった。そして、かの女は4度目の出産で、今度は自分が命を落としてしまった。そのとき生まれたのは男の子だった。父は、母親がいない子どもに神の祝福があるようにと、子どもにエマニュエル=フランソワと名づけた。フランソワは子どもの祖父の名前だ」
 シャルロットはゆっくりとうなずいた。「そして、自分の名前でもありますね?」
 ゴーティエもうなずいた。
「ちいさな子どもが二人もいる家に、隣人が助けの手をさしのべてきた。ところが、ちょっとした計算違いがあってね・・・。夫人は、自分の娘が父親よりも年上の男に夢中になるとは思っていなかった。わたしがいうのもおかしな話だが、父は魅力的な男性でね・・・エマニュエルを見ればわかるだろう? 父は彼にそっくりなすみれ色の目をしていてね」ゴーティエがそう言うと、その場にいる女性で唯一の他人であるアデライドはにっこりとほほえんだ。「・・・このくらいの年になっても、十分に若い女性に影響を与えることができた。いや、十分すぎるくらいに」
「マエストロは、魅力的な男性ですわ」アデライドがそっと答えた。隣でアグレスールがかの女の手をぎゅっと握りしめた。かの女は夫に向かってほほえみかけた。嫉妬させるのが楽しいといった風に。
 ゴーティエはアデライドにほほえみかけてからまじめな顔に戻り、続けた。「そして、当時16歳だったそのお嬢さんは、とんでもない行為に踏み切った。隣人を誘惑したんだ」
 シャルロットは目を丸くした。「逆ではなく・・・?」
 ゴーティエはうなずいた。「ド=ゴーロワ家の女性は、情熱的だからね。かの女の娘たちがどんなトラブルを起こしたか思い出しただけでも想像できるというものだ」
 スティーヴンとコルネリウスは苦笑したが、シャルロットは怪訝そうな顔をしているだけだった。
「かの女たちは、一人の男性---ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィル氏をめぐって、殺人事件まで起こしたんだ。その母親も、かの女たちと同じくらい情熱的な女性だった」ゴーティエは、それでも信じられないという表情をしているシャルロットを見て小さくため息をついたが、話を続けた。「・・・しかし、相手は16の女の子だ。彼は自分たちがしてしまったことの責任をとらなければならない立場だった。言い換えると、かの女は、結婚もしないのに彼の子どもを身ごもってしまったということだ。父はかの女と結婚するしかなかった」 
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