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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第75章

第1358回

 シャルロットはうなだれた。「・・・だいたいのところは」
「クラリスは、生まれてすぐに誘拐された」それを聞くと、スティーヴンはびくっと肩を動かしたが、口ははさまなかった。「そして、フランショーム一族の一家に引き取られ、5歳までそこで暮らした。かの女の<ド=ヴェルモン>という姓は、彼ら一家の姓だ。養父ポール=ド=ヴェルモンは政治家だったが、汚職事件ののち、家族とともに自害した。屋敷に火を放ったのだ。そして、クラリス一人生き残り、教会の前で倒れているところを、偶然にフランソワーズ=ド=ラヴェルダンに救われた。ド=ラヴェルダン女史は、ポール=ド=ヴェルモンの養女の正体を知らずにかの女を引き取った」
「・・・もし、知っていたら、どうだったかしら・・・?」シャルロットはつぶやいた。
 その問いは、部屋にいる全員の耳に届いた。彼らは一斉にシャルロットに視線を向けた。それから、ゴーティエがどう答えるだろうと期待した視線が、一斉に彼に向けられた。
 ゴーティエは苦笑して全員を見た。「みんなならどう思う?」
 しばらくして、トゥーサンが小さな声で言った。「もし、クラリスさんがシャルロットさんに似ているなら、答えは一つしかありません。この笑顔を見たら、そばに置きたいと思わずにいられるでしょうか?」
 ゴーティエはうなずいた。「わたしも同感だな」
 そして、こう続けた。「全くの他人であってもそう思うくらいだから、初恋の人の面影を残す女の子を見て、かの女が心を動かされなかったとは思えない。ただ、もし、かの女がそれを知っていたら、もっと違う育て方をしたかも知れないな。たとえば、フランショーム一族の男性にもっと用心させるとかね」
 シャルロットはうなずいた。
 フランショーム家の3人は思わずにやにやとした。一方、スティーヴンは真面目な顔をしてゴーティエを見つめていた。
「とにかく、フランソワーズさんは何も知らなかった。かの女が知っていたのは、クラリスにとてつもない才能があるということだけだ。かの女は、自分の養女の可能性を信じ、自分や自分の周りにいる作曲家たちとは正反対のグループの作曲家たちが教師をしている、ヴィルフォール音楽院という環境に養女を置こうとした。そうすることで、クラリスがより多種多様な音楽に触れることができると考えたんだな」ゴーティエは言った。「・・・結果的に、クラリスはよりメランベルジェの音楽に近づいたわけだがね・・・」
 オーギュストはうなずいた。「まるで逆の価値観に触れて、自分の本当の嗜好がわかったわけだ」
「そうだろうね。ただ、ずいぶん苦しんだようだ」ゴーティエは、昔のことを思い出すような表情をした。「だからこそ、わたしは、かの女に卒業祝いをしたかった。かの女自身は、卒業後どうすべきか決めかねているようだったが、一つの区切りだと思った。そして、かの女の同期生たちでその当時在学していた人たちも全員屋敷に呼んだ。その中に、エマニュエルやナターリア=スクロヴァチェフスカもいた」
 その名を聞き、シャルロットは驚いて彼を見た。「あなたは、ナターリアおばさまのこともご存じだったんですか?」
「もちろん。アレクサンドリーヌの同級生で、かの女の寮でのルームメイトだったから」ゴーティエはこともなげに言った。「そして、ナターリアにウワディスワフを引き合わせたのもわたしだ」
 シャルロットは目を大きく見開き、何も言えないまま口をぽかんと開けた。
「だが、わたしもすべてを見通していたわけではなかった。もし、あのとき、クラリスがザレスキー一族だと知っていたら、あのときの招待者リストにロベール=フランショームをくわえなかったに違いない」ゴーティエが言った。「・・・いや、それ以前に、たとえヴィーヴがどんなに泣きついてきたとしても、アルトゥール=ド=ヴェルクルーズを屋敷に入れなかっただろう」
 アルトゥールの3人の息子たちは驚いてゴーティエを見た。
「きみたちのお父さまが嫌いだったわけじゃない。だが、当時のわたしには、クラリスの方が大事だった」ゴーティエが3人に言った。
「つまり、あなたは、あの二人---クラリスさんとアルトゥールさん---が恋に落ちる可能性があったと思ったんですか?」スティーヴンが訊ねた。
 そのとき、ゴーティエが口にした言葉は、以前ドクトゥール=ダルベールの推理を聞いていなかった人たちにとって想像外なものだった。「アルは、初めて出会ったときからずっとクラリスが好きだったはずだ」
 その場の全員---シャルロットとスティーヴンを含めた全員---が意外そうな視線をゴーティエに向けた。
「・・・今になって考えれば、そう考えるのが妥当だろう」ゴーティエはそう続け、沈黙した。
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