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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第75章

第1359回

 同じように驚いた顔をしてはいたものの、アルトゥールの息子たちとシャルロットが驚いた理由は違っていた。シャルロットが驚いたのは、彼の話が、ドクトゥール=ダルベールの推理と同じだったからだ。
「どうしてそうお考えなんですか?」ロジェが兄弟を代表して訊ねた。
 下を向いたまま考え込んでいたゴーティエは、ロジェの方を向いた。「きみたちの母上を侮辱することになるかも知れないが、話すべきだろうか?」
 コルネリウスはすねた表情をして黙っていた。彼は、自分の父親が母親を愛していなかったことをすでに知っている。これ以上父親の悪口を聞いても、その印象がさらに悪くなることはあっても、良くなるとは考えられない。だから、彼は聞きたいのかどうか自分ではよくわからなかった。
 オーギュストは、つねづね自分の父親はドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリー(ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィル)、母親はクラリス=ド=ヴェルモンだと言い続けている。生物学上の両親を実の両親だと思ったことはあまりない。彼は、クラリスの過去に興味を持っていて、どちらかというと、話の続きが聞きたいと思っていた。クラリスが、自分の本当の父親の恋愛対象だったとすれば、それはそれで興味がある話だった。
 しかし、ロジェだけは、本当の母親の元で育った記憶がある。さらに父親の記憶はかなり鮮明だ。彼が持っている両親への愛着には、ほかの二人とは温度差があった。ロジェは弟たち、スティーヴン、シャルロットと視線を移し、彼らの表情をじっと見つめたあと、視線をゴーティエに戻した。
「・・・あなたの推測をうかがいましょう」ロジェは<推測>という言葉をあえて使った。
 ゴーティエは彼をしばらく見つめていた。それから、ふっと視線をはずした。
「繰り返すようで申し訳ないが、アルとフィルの二人は高校からの同級生だった。フィルはアルを兄のように慕い、アルの方は心の底ではフィルに激しく嫉妬していた。フィルがそれに気づいていなかったはずはないのだが、あえて無視し続けていたと考えられる」
「気づいていなかったはずはない・・・?」スティーヴンが口をはさんだ。
「フィルは、鋭い感性を持った少年だった。彼は、目の見えない母親に育てられ、物心ついたときには逆に母親を保護しようという義務感を持っていた。彼は、つねに観察していた。その結果、母親の表情から、かの女が何を考えているのか読みとることができるまでになっていた。彼は、自分の患者の顔を見ただけで、その人の病気をあてることができた。クラリスを自分の姉だと見破ったのも彼だった。その彼に、アルの本当の感情が見抜けなかったとは思えない」ゴーティエが言った。
 スティーヴンは考え込むような表情を見せた。
「フィルはヴィーヴに一目惚れした。それを見て、アルはかの女を口説いた。アルは女性にもてる人だったから、かの女が彼に夢中になるのは時間の問題だった。フィルはかの女のその様子を見て、自分には可能性がないと悟った。それでも、彼はかの女を諦めることができなかった。友達の一人としてでも構わないから、かの女の近くにいたかった。フィルは、人の表情を読みとることは得意だったが、若い女の子の感情までは理解できなかった。彼はヴィーヴの気持ちも、ペグの気持ちも、リネットの気持ちも理解できなかったんだ」
「ぼくだって、シャルロットが何を考えているのか当てる自信はないですよ」スティーヴンが冗談めかした口調で言った。「父親に似たんでしょうかね?」
 シャルロットは、彼が雰囲気を和ませるつもりで冗談を言ったことがわかったので、彼にほほえんで見せた。「ドクトゥールの息子さんがレディ=キラーだったら、冗談にならないわ」
 それを聞き、オーギュストは苦笑した。「だが、ドクトゥール=ド=ヴェルクルーズは、かなりの浮気者だったからなぁ・・・」
 シャルロットも苦笑した。この人は、今でも自分の本当の父親を<ドクトゥール=ド=ヴェルクルーズ>と呼ぶ。いいかげん、彼を父親だと認めればいいのに。
「そうではないと思う」ゴーティエが言った。「アルは確かに女性にもてたが、浮気者だったわけじゃない。本当の彼は、ナイーヴな人間だった」
 そして、アルトゥールの三人の息子たちに言った。「心に手をあててよく考えてごらん。きみたちは、ずっと心の中で誰かを愛し続けているはずだ。たとえそれ以外の女性が目の前に現われても---場合によってはその女性とデートしたりすることがあったとしても、それ以上の関係になったとしても---かの女のことを決して忘れたりはできなかった・・・違うか?」
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