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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第75章

第1361回

 そしてゴーティエは言った。「彼がミュラーユリュードに行った本当の理由。それは、あの事件の後に半身不随になったクラリスが隣の町に住んでいたからじゃないだろうか。彼は、たとえかの女に直接会うことができなかったとしても、かの女の近くに住み、かの女のことを少しでも知りたかったからじゃなかったんだろうかと、今になってそう思うんだ。そして、かの女が亡くなった後も、かの女の墓の近くに留まった。自分の本当の気持ちを鎧の中に押し込めたまま、彼は亡くなった。もしかすると、彼は自殺したのではなかったのかも知れない。本当に心臓発作を起こしたのかも知れない。わたしは、彼がエミリーを愛していると思っていたから、かの女を追ってこの世を去ったのだと思っていた。もし、わたしの考えが正しかったとしたら、彼があの日に亡くなったのは全く偶然だったのだ・・・」
 それを聞くと、ロジェはびくっとした。心臓発作。なるほど。自分の病気は、彼からの遺伝だったのか・・・。
「クラリスとアルは、ここで知り合った。当時、アルはエミリーを愛していた。少なくてもエミリーは彼を愛していた。彼の気持ちは愛情だったのか同情だったのかはわからない。しかし、二人の間にはロジェという子どもがいて、かの女は夫との離婚訴訟を起こそうとしていた。当時、かの女の夫は離婚に応じるつもりはなかったから、ド=マルティーヌ夫妻の間は最悪の関係になっていた。その事実は、妹たちには知らされなかった。なんといっても、かの女たちはまだ子どもだった。クラリスはかの女たちよりは年上だったとはいえ、やはり子どものようなものだった。しかし、アルはかの女を一人の女性として意識した。ザレスキー家の女性に対するフランショーム家の男性としては当然といえる反応だったに違いない。当時、彼はかの女がザレスキー一族だとは知らなかった。それでも、彼はかの女を意識した。彼の最初の反応は、徹底した無視だった。今ならわかる。意識していたからこそ無視しなければならなかったのだ」
 コルネリウスはうなずいた。その感情なら理解できる。婚約者を亡くした彼の前に現われたザレスキー一族の少女を、彼は意識しながら無視しようとした。かの女が自分の心の中に入ってくるのは容易なことだった。だが、それを許したら、《自分は一生かの女のことを愛する》と誓った婚約者に対する裏切りになる。彼は徹底してかの女を排除しようとした。結果的に二人が同一人物だったから彼はジレンマから解放されたが、もし、そうでなかったとしたら・・・。
「ところが、そこに自分の兄が現われ、かの女は彼に夢中になった」ゴーティエは続けた。「ロベール=フランショームも、クラリスがザレスキー一族だとは知らないまま恋に落ちた。アルは、かの女が彼に夢中になっている様子を黙ってみているしかなかった。やがて、フィルが、かの女の正体を見破った。クラリスがザレスキー一族だとわかったことで、彼らの恋の行方が怪しくなった」
 そう言うと、彼はエマニュエルの方に目を移した。
「そして、もう一つの恋愛が形成されつつあった。エマニュエルは、5年の間、黙ってクラリスを見つめているだけだった。この屋敷にやってきて、エマニュエルはかの女の作品を指揮するという役割を与えられたため、かの女と近づくことができた。ある日、彼はかの女を乗馬に誘った。クラリスは、厩舎にいた白い馬に気がついた。エマニュエルはかの女をその馬に乗せた。ところが、その馬は、クラリスが乗ったとたんに暴れ出して、一目散に駈けだした。エマニュエルはその馬を追いかけ、命がけでかの女を助け出した。その事件がすべての始まりだった」ゴーティエが言った。「その白い馬の持ち主がフィルだった。彼は、馬のことで謝りに来たクラリスと話をするうちに、クラリスが、死んだと思っていた姉に間違いないと推測するにいたり、その推測に基づいて調査をするために帰っていった。一方、馬から落ちて怪我をしたエマニュエルは、看病するクラリスに自分の思いを初めて告白した。『あなたがロビンを愛していることは知っています。でも、フィルが言うことが本当で、あなたがザレスキー一族だとすれば、あなたがたの恋愛には未来はありません。もし、彼があなたを諦めるようなことがあったら、わたしのことを思い出してください。わたしは、いつまででも待っています・・・』彼はかの女にこう言った。かの女はこう返事したそうだ。『いつまででも、なんてことが、本当にあり得るのかしら?』と」
 シャルロットはそれを聞き、下を向いた。その話は、かつてクラリスの口から聞いた記憶がある。
「クラリスがザレスキー一族だとわかると、ロベールの気持ちは揺れ動いた。フランショーム家当主の子どもとして育った彼には、ザレスキー一族の女性と結婚するには障害が多すぎた。それは、彼の弟だったアルにとっても同じことだ。最初にアクションを起こしたのはアルの方だった。彼は、クラリスを諦めるため、この家を出て行こうとした。彼が家を出ると言ったとき、ヴィーヴは反対したはずだ。その話し合いの内容は二人にしかわからないことだ。だが、話し合いが終わったとき、ヴィーヴとアルは婚約していた」
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