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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第134回

 シャロンはうなだれて聞いていた。
「わたしは、婚約者を取り換えた。新しい婚約者は、前の婚約者の弟だったの。彼は、わたしにとっては初恋の人だったけど、彼にとってのこの結婚というのは、わたしにとっての前の婚約と同じ意味を持っていたのよ・・・つまり、彼はむりやり結婚させられたのよ。人生ってうまくできていないものね・・・」ステラは苦笑した。「そして・・・後で知ったんだけど・・・彼には好きな人がいたの。そして、かの女には息子が一人いたの・・・そう、あなたたちには、お兄さまがいるのよ・・・。名前は、アレクサンドル=ド=ラヴェルダン・・・」
 フィルはうなずいた。彼は以前、兄がいるということは聞いていた。その名前を聞いたのはこれが初めてだったが、その名前に聞き覚えがあることに気づいていた。どこかで聞いた名前だったが、どこで聞いたのだろうか・・・?
「わたしは、あなたたちのお兄さまから・・・お父さまを取り上げてしまった・・・でも・・・もう、返さなければならないときが来ました」ステラはそう言うと、見えない目でシャロンの方を向いた。「お願い、シャロン。どうか、かの女と再婚してください。そして、アレクサンドルと・・・この子どもたちを頼みます・・・」
 シャロンは口をはさんだ。「なぜそんなに気弱なことを言うの?・・・それに、フランソワーズは、わたしとは再婚しないだろう・・・かの女は一人で生きている。そして、これからも一人で生きていく。かの女は、そういうひとだ・・・」
 ステラはほほえんだ。「・・・そうね・・・そうかもしれないわね・・・でも、アレクサンドルはあなたの息子だわ。あなたの一番上の息子・・・。かの女が一緒に住むのを拒んだとしても、かの女の息子は、この家の正当な跡継ぎよ。どうか、この家の将来を、彼に・・・。せめてそれだけでも、かの女にお願いしてもらえないかしら・・・筋違いのお願いだと言うことはわかっているけど・・・それでかの女に許してもらおうとは思わないけど・・・せめて、わたしからのつぐないに・・・」
 シャロンの手に力が入った。
「・・・あなたは、ショパンが生前に出版した最後の作品が何か、御存知?」
 シャロンは首を横に振った。「・・・いいや、知らない」
 ステラはほほえんだ。「そう。それならいいわ・・・」
 シャロンは訊ねた。「教えて欲しい。それは、いったい、何?」
 ステラはその問いには答えなかった。「・・・フィル、マディ・・・何があっても、立ち止まってはいけません。前を向いて歩きなさい。きっと幸せになります・・・。そう、生きてさえいれば、きっと、いいことがあります・・・」
 マドレーヌは涙ぐんでフィルを見つめた。フィルは、涙を拭いてマドレーヌにほほえみかけた。
「みんなで、なかよくやってね・・・なかよくね・・・」ステラはそう言うと目を閉じた。
「・・・疲れたんだね・・・」シャロンはそう言うと、妻を抱き上げてベッドに戻した。
 ステラは、そのまま眠り続けた。
 ステファンスキーと約束した最後のレッスンの機会は、ついに訪れなかった。
 1887年10月17日、ステラは意識を取り戻すことなくこの世を去った。29歳の若さであった。
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