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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第135回

 埋葬式が終わった後、ステラの新しい墓の前で、ステファンスキーがシャロンに言った。
「わたしは、ポーランドに帰ることにしました。ステラさんが・・・かの女のショパンが、国に帰れとわたしに勧めたのです」
 シャロンは彼と握手した。「あなたは、ポーランド人です。ショパンはついに国に帰れなかった・・・ステラもそうですけど・・・でも、あなたは、戻らなくてはならないのです」
 ステファンスキーはうなずいた。「ありがとうございました。天国のステラさんにもお礼が言いたかったのですが・・・」
『かの女にもわかっていますよ』という表情でシャロンがうなずいた。
 二人は、ステラの墓の前でもう一度祈った。
「・・・ところで、最後に一つだけうかがってもよろしいですか?」シャロンが訊ねた。
「何でしょう?」
「ショパンが生前出版した最後の作品、って、何だったのですか?」
 ステファンスキーはびっくりしたような表情を浮かべた。
「ステラが、最後に聞いたんですよ。『あなたは、ショパンが生前出版した最後の作品を御存知?』って・・・。どういう意味でしょう?」
「ショパンが生前出版した最後の作品は、作品番号65・・・。ト短調のチェロソナタです」ステファンスキーが答えた。
「チェロソナタですって・・・!」シャロンは絶句した。
 彼の目から涙があふれてきた。
「・・・そうだったんですか・・・」シャロンがつぶやいた。
 ステラの謎かけの答えがやっとわかった。かの女は、最後に自分と一緒にチェロソナタを演奏したかったのだ! しかし、彼は、最後までそれに気づかなかった。どうしてもっと早く、それに気づかなかったのだろうか?
 ステファンスキーは、彼の様子を見て、何も言わずに立ち去った。
 シャロンは、ステラの墓の前で泣き続けた。そして、生前言ってあげることができなかった言葉を繰り返していた。
「・・・ごめん、ステラ。わたしの心が狭すぎたばかりに・・・わたしが頑固だったばかりに・・・こんなことになるのなら、もっとはやく言えばよかったんだ・・・きみを愛している、って・・・きみのおかげで、わたしは幸せだった、って・・・」
 フィルは、その後ろ姿を忘れることはできないと思った。それは、いつかパリの屋敷で母親が見せた涙を思わせた。この二人は、お互いに愛し合っていたのに、どこかで行き違っていたのだ・・・。


 この葬儀の後、シャロンは子どもたちを連れてパリに行った。
 フィルはパリの高校に、マドレーヌは小学校に編入した。翌年、フィルは大学の医学部に進学した。彼は、あのときの誓いを忘れなかった。医者になって、病気の治療法の研究をする・・・それが彼の夢であった。一番救いたかった人を助けることはもうできないが、こんなふうに死んでしまう人を一人でも減らすことができれば、亡くなった母親もきっと喜んでくれる・・・フィルはそう思ったのである。
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