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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第8章

第138回

 プランス=シャロンの葬式が終わってから3日目に、エマニュエル=サンフルーリィはパリのド=ルージュヴィル邸にクラリスを訪ねてやってきた。
 クラリスは、まだそこに滞在していた。かの女は、これからどうするか決めかねていたところであった。
 エマニュエルは、訪問の理由をこう説明した。「誰かと話をすると、ちょっとは悲しい気分を忘れるんじゃないかと思ったんです」
 クラリスは何も言わなかった。かの女は、あっという間に本当の孤児になってしまった。悲しい気分を感じるまでには、時間がかかりそうな気がしていた。
「わたしには、何もできません。あなたを慰めることも、恐らくできないでしょう。でも、あなたのそばにいようと思ったんです」
 クラリスは、首を横に振った。「あなたは、いつだってわたしを助けてくれたわ。わたしが困ったとき、相談事があるとき、気がつくと、あなたはわたしのそばにいて、わたしが話すのを待っていたわ・・・。でも、これからは違うのよ。わたしは、あなたに甘えすぎていた。もう、あなたに迷惑をかけたくないわ」
「迷惑だなんて・・・」エマニュエルは口ごもった。「わたしは、ただ・・・だって、あなたは・・・仲間だったじゃないですか・・・」
「これからは、これまでとは違うわ」クラリスはもう一度言った。
 エマニュエルは、すまなそうな顔をした。
 クラリスは、彼に椅子を勧め、自分も座った。
「わたしは、自分がどうしたいのか、どうしたらいいのか・・・と考えています。でも、今、考えがまとまらないの」クラリスが口を開いた。
「・・・いろいろあって・・・?」エマニュエルが訊ねた。
 クラリスは首を横に振った。「フランソワーズおばさまは、作曲の勉強を続けなさいとおっしゃったわ。メランベルジェの弟子以外のところで・・・と。でも、誰のところに行けばいいかわからない。ランディは、ロラン教授にあてた推薦状をくださった。だけど、アンリ=ロランに習いたいかどうか、自分ではよくわからないわ」
「これから、どんな作品を書いていきたいと思っているの?」エマニュエルが訊ねた。「いや、どんな作品を書く手がかりが欲しいの?」
 クラリスははっとした。
「先生を捜すには、まず、自分の夢を・・・将来の展望を考えるべきじゃないかしら」エマニュエルが言った。
「自分の夢・・・?」クラリスはエマニュエルを見つめた。そうだ、自分はがむしゃらに走り続けていた。地図と羅針盤が必要だ・・・かの女はそれに気づいたのである。
 エマニュエルは真面目な顔でうなずいた。
「・・・あなたの夢は、何なの?」クラリスは反対に訊ねかえした。
「夢、ですか?」急に訊ねられて、エマニュエルは驚いた。しかし、その顔にはほほえみが浮かんだ。「わたしの夢は、自分のオーケストラを作ることです」
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