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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第77章

第1397回

「ええ」ヴィトールドが言った。「そうしないと、不幸になるからです。ちいさいときはテロリストの妹としていじめられ、大きくなってからはイーヴというろくでなしにもてあそばれた思い出に引きずられて生きている。これで、かの女が幸せだと思いますか?」
 アントーニは首を横に振った。「いいえ。でも、どうして、あなたがかの女にそこまでする必要があるのです?」
 ヴィトールドは彼の表情を見つめ、真剣に答えた。「かの女がフェリックス=ザモイスキーの妹だからです」
 怪訝そうに見つめるアントーニに、ヴィトールドは言った。「ぼくは、さっき、一つだけかの女に言わなかったことがあります。フェリックス=ザモイスキーは、友人の養父母を殺しました。ですが、そのとき、彼らと一緒にいて、事件の唯一の生き残りであり、事件の目撃者であったはずの友人の命を助けてくれたんです。だから、ぼくは、彼の妹を助けたかった」
「その友人とは、あなたの恋人のこと?」
「いいえ、あこがれの人物です」ヴィトールドはほほえみ、こう続けた。「あなたにとって、マウゴジャータさんがそうであるような・・・」
 それを聞くと、アントーニは真っ赤になった。
 二人は、しばらく黙って座っていた。お互いに正面を向いたまま。
 二人の背後で、男性の声がした。
「将軍さん、あなたにとって戦争とは何だ?」
 ヴィトールドは振り返った。そこには、酔っ払ったコンラッド=ケップラーが立っていた。
 ヴィトールドは彼を見つめ、優しく答えた。「合法的な殺人の場です」
「そう、そのとおり」ケップラーははっきりしない口調で言った。「あなたは、自分では手を汚さず、人に命令する立場だった」
 ヴィトールドは何も言い返さなかった。
「あなたは、進んで戦争に行った。平気な顔をして人の命を奪った。自分が殺したんじゃない。殺したのは部下の兵士だと言って、罪の意識を逃れようとしたに違いない。しかし、あなたが人殺しだという事実は変わらない」ケップラーの目はすわっていた。
「やめろ、コンラッド!」アントーニは制止した。
 しかし、ケップラーは大きな声で叫んだ。「あなたは、わたしの兄を殺したやつらと同じ人殺しだ!」
 ヴィトールドは青ざめた。
「弁解しないのか?」ケップラーが言った。
「そう言われても仕方ないでしょう」ヴィトールドは彼の目をまっすぐに見つめて話し出した。「ぼくは、たくさんの人を殺しました。ある時は自分の手で、あるいは他人の手で・・・」
 彼の静かだがよく通る声を聞き、カフェにいた全員が彼らの方を一斉に見つめた。
「ぼくは、ポーランド人で、ポーランド人部隊に所属していました。ぼくが軍隊に入ろうと思ったのは、ぼくたちポーランド人の長年の夢を叶えるためでした。ポーランドの独立・・・。その目標のため、ぼくたちは、これまでたくさんの血を流してきました。この戦いが、その最後の戦いであって欲しいと思ったのです」ヴィトールドは目をそらさず、優しい口調のまま話し続けた。「ぼくは、部下たちに言いました。『ぼくたちは、ポーランドのために戦っているんだよ。戦いが終わったとき、この世にぼくたちの天国が誕生しているだろう。そして、きみたちの家族、恋人がそこで幸せに暮らすことだろう・・・。ぼくたちの犠牲は無駄ではないんだよ』・・・彼らは、それを信じて戦っていたのだと思います。ぼくは最初はそのつもりだったし、彼らにそれを信じさせるため、自分もそれを信じているふりをしていました・・・」
 ヴィトールドはいったん言葉を切り、大きく息を吸い込んで再び話し出した。
「しかし、ぼくは知っていました。敵と言われる人たちの中にも、ポーランド人の兵士たちがいることを。彼らも同じ願いを持って戦っていることも・・・。つまり、ポーランド人は、同じポーランド人でありながら、敵味方に分かれて戦っていたのです」
 カフェは完全に静まりかえった。その場の全員が、ヴィトールドとケップラーに注目していた。
「ぼくは、人を殺すのがとても恐かった」ヴィトールドは優しい口調のまま告白を続けた。「殺さなかったら殺される、というときにしか殺すまいと思い、責任逃れを考えたこともあります。考えてみて下さい。今攻撃している相手が自分と同じ国の人間だとして、あなたは彼を敵だと思えますか? その人を殺そうと思いますか? もし、彼の動機も自分と同じように自国の独立のためだと思ったとき、同じ目的のために戦っている同志を殺したいと思うでしょうか? でも、ぼくはそうしなければならなかった・・・」
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