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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第8章

第140回

 クラリスは、音楽院で勉強するよりも、作曲家に個人的に作曲法を習おうと考えていた。どちらにしても、今から音楽院に入るのは時期的に無理であった。
 かの女は、誰に習うべきか決めかねていたのである。
 ヴィルフォール音楽院の恩師エリック=ランディは、自分の師アンリ=ロランに推薦状を書いた。ロランといえば、現在パリ音楽院の主任教授であるだけではなく、現在のフランス音楽の第一人者と言っていい人物である。そんな人物に推薦してくれた自分の恩師に感謝しないわけではないが、ロランといえば、クラリスの恩師とも言える亡きメランベルジェとは対立する立場にいた人間である。そんな人間に作曲を習うのは、どうしても気が進まなかった。
 第一人者、といえば、サン=バルテルミー音楽学校のエティエンヌ=クーランも超一流のオペラ作曲家である。彼は、フランス人によるフランス語のオペラという理想を掲げ、フランスオペラの地位を向上させた人物である。ただ、クラリスはオペラには興味がなかった。
 エマニュエル=サンフルーリィは、かの女に、自分が何をしたいか考えるように言った。
 かの女はそれを探そうと思った。オペラに興味はないが、それなら、何がしたいのか? 交響曲を作りたいのか、室内楽を作りたいのか、器楽曲を作りたいのか、声楽曲か? それとも、教会音楽?
 かの女は考えた。交響曲なら、ベルナール=ルブランにほぼ完璧なオーケストレーションを学んだ。もう、ほかに誰かに学ぶ必要はない。
 では、室内楽か?
 室内楽なら、コンセルヴァトワールに、マルク=アントワーヌ=シモン教授がいる。彼は、メランベルジェのすすめで室内楽曲を作り始めたという。彼の和声は独特であった。ロランのものとは違い、フランス的な響きであった。精神的な高さを保っているが、それでいてメランベルジェのような宗教的なものとは違う。知的であっても、ベルナール=ルブランの理論づくしの音楽とは一線を画している。シモンは、あくまでもシモンであった。クラリスは、彼に興味を持った。この人からなら、何か吸収できるのではないか?
 さんざん考えたあげく、クラリスは、エドゥワール=ロジェに相談しようと決めた。
 エマニュエルが訪ねてきてから一週間後、かの女は、ロジェが出入りしているというカフェ<地獄のオルフェ>に向かった。
 前に来たときには気づかなかったのだが、そのカフェの奥には小さなステージがあった。そのステージ正面には一台の黒いグランドピアノがあり、そのピアノの近くに何人か集まっていた。そして、ピアノの前には、黒い髪で黒いひげの男が観客の方を向いて座っていた。これから何か演奏をする・・・という雰囲気ではなかったので、クラリスは彼らを無視してあたりを見回した。
 エドゥワール=ロジェはいないようだった。
 クラリスは、帰ろうとした。
 そのとき、さっきピアノの前に座っていた男が、和音を3つ、刻むようにゆっくりと鳴らした。
「・・・それでは、5度とオクターヴの連続だわ・・・」クラリスは、気づかないうちにそう口走っていた。
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