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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第78章

第1425回

 しかし、今、シャルロットはヴィトールドを愛してしまっていた。少なくても、今のかの女には、ヴィトールドが必要だった。婚約者のコルネリウス以上にヴィトールドが必要だった。ヴィトールドと一緒にいると、コルネリウスと一緒のときには決して味わったことがない安らぎを感じる。その安らぎは、あまりにも心地の良いものだった。かの女は、これまで、こんな風に安定した環境で過ごすことはあまりなかった。その安定が、ヴィトールドがもたらしたものだと気づき、かの女は困惑したのである。ヴィトールドが去るとわかったとき、かの女はそれを悟った。彼がいない生活は、これがすべてなくなることを意味する。ほんの数ヶ月前までの、あの生活に逆戻りする。かの女はその不安定さに脅えた。
 今ならまだ間に合う。ヴィトールドを引き留め、『お願い、わたしを捨てないで! ずっとここにいて!』と言うんだ! 《あなたを愛しています》という呪文を唱えさえすれば、かの女は今の生活を続けることができる。呪文を唱えさえすれば!
 そのとき、恐ろしい不安がかの女をとらえた。もし、ヴィトールドのプロポーズが、酒の上での軽はずみな発言だったら・・・・?
 かの女は、酔っている人の言葉は信じなかった。これまで、酔ったロジェが何度かの女を失望させてきただろう? カフェ=ヴァンドルディのメンバーたちが、何度空手形を発行してきただろう? ヴィトールドのこの言葉だけが真実だとはとても思えなかった。
 いや、たとえ酔っていなくても、ヴィトールドは誠実な人間だ。彼ならば、自分を幸せにしてくれるはずだ。かの女には確信があった。そうであればこそ、彼は学生時代にあれほどの人望があったのだ。そうであればこそ、たくさんの人たちが戦場で彼に命を託したのだ。ヴィトールドは、その権力だけで彼らを従わせてきたのではなかったはずだ。彼を知れば、彼を好きにならずにはいられない。彼はそういう人間だった。
 今なら、まだ、遅くはない!
 シャルロットは迷った。彼を追いかけることは、大きなリスクを伴うことだ。それは、ザレスキー・フランショーム両家の歴史を変えるほどの大きな意味を持つできごとだ。かの女が彼を選ぶことは、フランショーム一族に対する裏切り行為だ。これによって、フランショーム一族は、さらにザレスキー一族を憎むことになるだろう。それだけの覚悟が、今の自分にはあるだろうか? それだけの覚悟を、ザレスキー家の当主であるヴィトールドに強いることとは、本当に正しいことなのだろうか・・・?
 シャルロットは、自分の母親に思いを巡らせていた。
 クラリス=ド=ヴェルモンは、ロベール=フランショームを捨て、エマニュエル=サンフルーリィを選んだ。今のかの女には、母親の気持ちが理解できた。当時、クラリスは、エマニュエルよりロベールが好きだっただろう、自分がコルネリウスを愛しているように・・・。コルネリウスは彼なりにかの女を愛している。しかし、フランショーム家の彼には、今かの女が必要としている安らぎを与えることはできない。クラリスにとって、エマニュエルとロベールの関係もきっとそんなものだったに違いない。かの女が残した遺言状<ディスクール=ダディユ>では、ロベールのテーマは優しかった。エマニュエルが嫉妬してしまうほどに・・・。しかし、最終的には、クラリスはあの穏やかな優しい愛ではなく、美しく激しい愛を選んだのだ。クラリスは強い人間だった。
 シャルロットは、母親をうらやましいと思った。自分の行動が、あらたな<ザレスキー=フランショーム戦争>の火種になることを知りながら、自分にはロベールではなくエマニュエルが必要だと決心し、それを貫いた一人の女性としてのクラリスが・・・。
 今の自分に、それができるだろうか?
 そう思ったとき、シャルロットは突然はっとした。
---もし、探しに行くとして、いったいどこを探すつもりなの?
 シャルロットはそのときになって初めて、ヴィトールドのことを実は何も知らなかったのだと痛感した。彼は普段どんなふうに物事を考え、どういうふうに行動するのか。こんなときには、どこに行くのか・・・。どこへ行こうとしているのか・・・。
 時計が12回鳴った。
 シャルロットは立ち上がり、階段の方に歩き出した。
 シンデレラが階段をのぼり終え、視界から見えなくなって初めて、ロジェはほっとため息をつき、部屋に戻っていった。
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