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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第79章

第1428回

 グレタは、部屋に入り、シャルロットに椅子を勧めたあと、戸棚からティーカップを二つ取り出した。そして、小さなストーブの上で小気味よい音を立てていたやかんの湯をポットに注いだ。その足でキッチンに行き、オーヴンから焼き上がったばかりのクッキーを取りだして皿に並べ、皿を持って戻ってきたあとでポットの紅茶をカップに注いだ。その手際の良い動作を、シャルロットは感心して眺めていた。
「さあ、どうぞ」グレタはそう言いながら椅子に座った。
 グレタは、シャルロットの表情を見つめ、こう続けた。「あら、どうかして・・・?」
「あなたは、まるで魔女のように手際がいいんですね」シャルロットはそう言った。
「まあ・・・」グレタはほほえんだ。そして、小さな声でこう言った。「コランにも、よくそう言われたものだわ」
 その笑顔を見て、シャルロットの顔にもほほえみが浮かんだ。ああ、このひとは、今でも彼が好きなのね!
「彼は、わたしを<ちいさな魔女>と呼んでいたわ」グレタはそう言い、「・・・あついうちにどうぞ」と声をかけた。
「ありがとうございます」シャルロットは、皿のクッキーに手を出した。
「コランは、クッキーが好きだったの」グレタはそう言うと、少し寂しげな笑みを見せた。
 それから、かの女は唐突に話題を変えた。「兄のクラウスとお会いになったそうですね」
 シャルロットはうなずいた。
「彼が言っていました。クラリスの娘さんは、とてもきれいなひとだった、と」グレタはそう言った。「クラリスはひまわりのようなひとだった。だが、娘さんの方は白いバラのようなひとだと。・・・わたしも兄と同意見です」
「バラには、棘がありますから」シャルロットはそっとほほえんだ。
「わたしはクラリスさんを知りませんが、兄がどんな女性を好きになるかはわかります」グレタは言った。「あなたのお母さまは、きっと明るい女性だったんですね。ひまわりのような笑顔が印象的な方・・・そういう感じだと思います。でも、あなたは、恐らくかの女よりも弱い女性なんじゃないかしら。自分を守る棘が必要なくらいに・・・」
 シャルロットは何も言わなかった。
「そして、あなたの周りにいる男性たちは、そんなあなたを保護したいという気持ちにさせられている・・・。でも、あなたの気持ちは、その誰にも向いていない・・・」
 シャルロットは顔を上げた。「どうして、そんなことを・・・?」
「あなたたちは、有名人なのよ」グレタが言った。「T城に住む公爵家のお嬢さんと、同居人の二人の小説家。二人の騎士はお姫さまを守っていて、いつかそこに王子様が現われるのを待っているのだとか」
 シャルロットはちいさくため息をついた。「同じようにいとこと暮らしていても、あなたの場合は美談で、わたしはスキャンダルというわけね・・・」
 グレタは笑った。「だって、あなたは、いとこさんを愛していないんでしょう?」
「ええ」
「でも、彼らはあなたを愛している」グレタは優しく言った。「二人は、あなたを巡って争い、そのうち一人は家を飛び出していった・・・」
 シャルロットはもう一度ため息をついた。「そんな風に言われているんですか・・・?」
「そうね。そう聞いているわ」グレタは言った。「それとも、町の噂は間違いなのかしら?」
 シャルロットは小さな声で言った。「彼らが喧嘩したのは、わたしが原因じゃないわ」
「でも、似たようなものでなくって・・・?」そう言うと、グレタは目の前の紅茶を口にした。
「同じじゃないわ」シャルロットは暗い顔で言った。
 グレタはカップを下に置くと、真面目な顔で訊ねた。
「それで、あなたはいったい誰を選ぶつもりでいるの? もし差しつかえなかったら、話して頂ける?」
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