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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第79章

第1434回

 シャルロットはレマン湖に向かっていた。かの女は、いつもの場所に来ると、馬を木につなぎ、大きな石に座った。手紙は2通だった。そして、2通とも見覚えのある筆跡だった。一通はマルセイユの、もう一通はパリの消印がある手紙だった。その二つの封筒を見つめ、シャルロットは動揺した。一方はコルネリウスの筆跡で、もう一つはヴィトールドの筆跡だったからだ。かの女は、パリの消印があるコルネリウスの手紙を先に開封した。


愛するシュリー
 あの日からはや一年が経とうとしている。ぼくはきみに何度か手紙を書いた。意外なことに、きみは手紙をくれなかった。一通も。きみにしては珍しいことだね。これまでは、ぼくが手紙を書かなくても、きみはまめに手紙をくれるひとだったのにね。本当のことを言うと、ずっと悩んでいたんだよ。どうしてきみが手紙をくれなくなったのだろうか、とね。もし、ぼくに遠慮しているのなら、その気遣いはいらない。ぼくは、きみが知る通り、筆まめな人間ではない。だが、手紙をもらってうれしくなかったことなんかない。きみは、いつだって、愛情のこもった手紙をくれるひとだった。でも、どうして急に手紙を書かなくなってしまったの?
 ぼくは、毎晩のようにきみの夢を見る。だが、近頃、きみは夢の中でも何も言わなくなってしまった。きみの声が聞きたいと思うが、夢の中でさえ、きみは何も言ってくれない。きみが心変わりしたのではないかとロジェが言う。本当なの? きみが手紙を書かない本当の理由は、ほかの男性の存在なの?
 ぼくはきみを信じたい。ぼくの修行が終わるとき、ぼくの元に来てくれるときみは言った。その修行のときは、短くなりつつある。この手紙に、新聞の記事を同封する。ぼくがパリに来ているのは、指導教官のディベール博士と一緒に書いた論文が表彰されたためだ。ここにきて、ぼくが早めに卒業できる見通しが立ったのだ。あと少し待ってもらえれば、ぼくは大学を卒業することができるんだ。この一年、本当に苦しかった。だが、きみのためにこの苦しい道のりを駆け抜けようとしている。少しでも早く卒業するために。少しでも早く幸福に手が届くように。きみを愛している。この道を抜けたら、ぼくがきみを迎えに行く。ぼくの愛を信じて、もう少しだけ待っていてくれ。
 今、きみの声を聞きたい。せめて、きみの手紙が読みたい。どんな返事でもいいから、これを読んだら手紙を書いてくれ。
コルネリウス


 シャルロットは驚いて顔を上げた。
「《ぼくはきみに何度か手紙を書いた》」シャルロットは声に出して言った。「・・・手紙を書いた、ですって?」
 シャルロットは、この一年、コルネリウスから一通も手紙を受け取っていない。だからこそ、かの女は彼に一通も手紙を出さなかったのである。彼の迷惑になりたくなかったから。以前、それで二人の仲がこじれた。以前、彼がかの女に別れの手紙を出したのも、そんないきさつの末のできごとだ。
 しかし、ロジェはコルネリウスに手紙を出したのだ。ロジェの手紙の内容は、コルネリウスの手紙から察すると、自分が落ち込んでいることかヴィトールドとの暮らしぶりのことに違いない。ヴィトールドが出て行ったいきさつも、コルネリウスには知らされているのだろう。
 なぜ、彼の手紙は一通も届かなかったのだろう? まさか、コルネリウスの手紙を、ロジェが隠したとも思えない。だいいち、彼がそこまでする理由がわからない。そんなことまではしないだろう。それでは、手紙はいったいどうなったというのだ? まさか、ヴィトールドが・・・?
 シャルロットは、同封されていた新聞の切り抜きを見た。パリの新聞で、コルネリウスともう一人の男性が並んで写真に写っていた。研究のタイトルを見てもかの女にはよくわからなかったが、二人の論文が何かの雑誌の公募論文の賞を取ったという記事で、どうやらそれは画期的な研究らしいということしかわからない。そして、記事によると、コルネリウスは通常の期間より短い期間ですべての勉強を終えて卒業できそうだという。父親や義理の叔父のことが紹介され、彼は学者一家の人間で、将来を期待されているとあった。ただ、現時点では父親のように研究者として進むか、それとも祖父のように医者になるのかまだ未定だと言うことである。
 ただ、記事には書かれていないが、どちらにしても、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーの研究所の将来は、彼にかかっているはずだった。なぜ記事はそこまで踏み込まなかったのかはわからない。恐らく、一緒にいたディベール教授への配慮だったのかも知れない。
 シャルロットは、もう一通の手紙を開いた。
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