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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第80章

第1450回

「フリーツェック? クラコヴィアクのフリーツェックのこと?」シャルロットは目を丸くした。
 フェリックスはむっとしたようにうなずいた。「もう少しうれしそうに聞いてくれてもいいと思ったのにな・・・」
「ごめんなさい」シャルロットは謝った。「・・・それで、フリーツェックは、あのあとフランスに残っていたの?」
 フェリックスは《もう・・・ほんとに全然聞いていなかったんだね?》という表情で小さくため息をついた後、同じ話をもう一度繰り返した。
 シャルロットは、今度は、ヴィトールドの冗談にくすくす笑っているナディアの方を見ないようにしてフェリックスの話を聞こうとした。しかし、そうする必要はなかった。彼の話すフリーデリックの消息には、気になる点がいくつかあったからである。
「フリーツェックは、フランスに来てすぐに戦争に巻き込まれた。彼のパスポートはドイツのものだったから、彼の立場は非常に不安定なものだった。彼は、パリに留まることができず、かといってドイツに行くつもりはなかった。それで、彼は賭に出た」フェリックスはそう言った。「彼は、ブーローニュ=シュル=メールのフランソワーズ=ド=ラヴェルダンの元へ押しかけた。そして、かの女の内弟子になったんだ。ド=ラヴェルダン女史は、最初のころは、彼をポーランド人としてまわりの人々に紹介し、めんどうを見ていた。やがて、彼の国籍がドイツであることが明るみに出ると、彼は事実上屋敷に軟禁状態になった。一歩も外へ出ることは許されなかった。さすがに、鉄格子のついた部屋に入れられることはなかったが、教会へ行くことさえ許されなかったんだ」
 シャルロットは黙ってうなずいた。
「やがて、ド=ラヴェルダン女史は病気になった。かの女は、弟子たちのほとんどを自分の家から出した。ほかの先生のところへ行かせようとしたんだ。ただ、フリーツェックだけは例外だった。かの女が彼を出て行かせまいとしたからだけじゃない。誰も彼を引き取ろうとはしなかったからだ。ドイツ人の捕虜の世話をするようなものだったからね」フェリックスが言った。「かの女の弟子たちのほとんどは、泣く泣くブーローニュを離れた。クリスティアン=ベローの弟子になり、ブーローニュに留まった若者もいた。町の人たちは、ド=ラヴェルダン女史をも誤解した。まるで、かの女がドイツ人をかくまっているかのように噂され、ひどい人になると、彼らが愛人関係にあったという噂を流したりした。そんな中、とうとうド=ラヴェルダン女史が亡くなった。町の人たちは、かの女を誤解し続け、かの女は、実の孫とフリーツェックだけの寂しい葬式のあと、ひっそりと埋葬されたんだ。かの女の死は、終戦後公にされた」
「ひどい話だわ!」シャルロットは憤慨した。「あれだけの大作曲家が・・・」
 シャルロットの目に涙があふれた。何ということだろう。母の養母が・・・祖父が一番愛した女性が・・・あの才能ある作曲家が、そんな寂しい最期を迎えなければならなかったなんて!
「そのあとも、フリーツェックは、終戦までその家に軟禁され続けた」フェリックスが言った。「戦争が終わり、彼は拘束を解かれ、パリへ出てきた。そして、ぼくたちは再会した」
 シャルロットは目にハンカチを当て、黙ってうなずいた。
「それから、彼はメランベルジェ校に入学し、ベルナール=ルブランに師事しているんだ」フェリックスが言った。「彼は、今、ここに向かっているところだと思う。彼の同級生の何人かもこっちへ来るよ」
「ベルナール=ルブランの門下?」シャルロットは首をかしげ、思いついた名前を口にした。「・・・もしかして、あなたは、オーギュスト=ド=マルティーヌをご存じ?」
「ミューを知っているの?」フェリックスは逆に聞き返した。その目が輝いた。
「ミューもここへ?」
 フェリックスはうなずいた。「その予定だが? それに、彼のいとこも一緒だ」
「いとこ?」シャルロットは素早く頭を回転させた。「・・・まさか、フランソワ=フランショーム?」
 その名を聞くと、ヴィトールドは話を中断し、シャルロットたちの方へ視線を移した。「ファンシュが、ここへ?」
「ファンシュ?」ナディアが訊ねた。「誰のこと?」
「フランソワ=フランショーム。ぼくのかつての同級生だ」ヴィトールドが言った。「彼は、フランショーム一族の当主だ」
 ナディアとフェリックスは目を丸くした。
「・・・何だと?」そこだけを耳にはさんだヴァークが新聞から顔を上げた。「すごいじゃないか! おまえの結婚式に、あの有名なザレスキー家とフランショーム家のリーダーがそろって参列するなんて!」
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