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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第15回

 1885年末、ベルナール=ルブラン、エドゥワール=ロジェ、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンの3人は、たまたま交響曲を作曲していた。ロジェの場合は、フランソワーズに触発されたから・・・ということもあったが、ルブランは、クラリスにオーケストレーションを教えることが目的の一つでもあった。
「ロジェは音楽で感情を伝え、ルブランは哲学を語り、フラニーは色彩にこだわる」メランベルジェがよくこう語った。三人の弟子の特性を言い表した言葉である。
 そのロジェが、一番早く壁にぶつかった。
 彼は、草稿を持ってメランベルジェの元を訪れた。
 メランベルジェは、弟子の作品に目を通した。だんだん表情が険しくなってきた。
「・・・エド、きみは、この曲で、何を伝えようとしたのかね?」
「わかりません」ロジェが答えた。
 メランベルジェの表情がちょっとだけゆるんだ。「そう答えると思っていたよ」
 ロジェは、真面目な表情で師を見つめた。
「音楽が、そう語っている」メランベルジェが続けた。「きみは、迷っている。なぜかはわからないが。・・・これは、何だね?」
 メランベルジェは、一つの音型を指さした。
「波の音です」ロジェが答えた。
「波?」
「わたしは、カレーの出身なんです」
 メランベルジェは、納得したようにうなずいた。「カレーの海か。波の音・・・なるほど。きみは、里帰りした方が良さそうだね」
 ロジェはびっくりした。
「そこに、何かきっかけがありそうだね」メランベルジェが言った。「ただし、一人きりで、だぞ」
 メランベルジェは、座っていたいすから立ちあがり、ピアノに向かった。そして、ロジェのスコアを演奏し始めた。「波の音。そうだ、波の音だ。この曲は、やがて<カレー交響曲>と呼ばれるようになるだろうね」
 しかし、その手は途中で止まった。
「よく書けていると、わたしは思うよ。第一楽章は申し分ない出来だ。第二楽章も、もう少し練り上げればもっとよくなるよ。ただ、第三楽章は・・・わたしは、あまり気に入らないね」
 ロジェは、メランベルジェの目を見つめた。「そこに、わたしらしくない、何かがあるんですね?」
「それもある」メランベルジェが言った。「波の音。不安。そして・・・」
『そして、ワーグナーの影響・・・』ロジェは心の中で言った。
「そして・・・きみらしさを破壊する要素」メランベルジェは、ワーグナーの名前をあえて言わなかった。
 メランベルジェにそう言われるのは、これが初めてではない。
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