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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第80章

第1460回

 シャルロットは、フリーデリックの長い告白を聞きながら泣いていた。あのレイディ=ファンシェットなら、そのくらいのことをしてもおかしくない。かの女は情熱的なひとだった。
 彼は告白の最後にこう言った。
「・・・ぼくは、ずっときみを愛していた。だけど、ぼくは別の女性と関係を持ってしまった。ぼくにとってかの女は初めての女性だった。そして、ぼくはかの女にとっても初めての男性だったんだ」フリーデリックは苦しそうだった。「ぼくは、それを知ったとき、あんなことをしでかした償いをしようとしたんだ。だが、フラニーはそれを拒んだ。『今の時期に、ドイツ人と結婚するなんてあり得ない。あなたとこんなことをしたことを知られただけでも、何を言われるかわからない。どうか、このことは内緒にして欲しい。わたしはあなたが好きだし、こうなったことを決して後悔はしていない。あなたは、あなたが好きな女性と結婚して、幸せになるべきだわ。あなたは、わたしに結婚を申し込む必要はないわ』・・・」
 シャルロットは唇をふるわせた。「それが本心だったとは思えないわ」
「フラニーは、強い女性だ」フリーデリックが言った。「一人で生きていけるくらい、じゅうぶんに」
「そうね。だけど、好きな男性と結婚したくないと本気で考える女性がいるかしら?」
 フリーデリックは小さな声で言った。「もしぼくがかの女の立場にいたら、自分を愛していない男性に対して結婚を迫らないだろうと思った。だから、無理強いはしなかった」
《どういうこと?》とシャルロットは目で訊ねた。
「本当は別の女性を愛している男性と結婚したとして、幸せになれるだろうか?」フリーデリックが言った。「そうでなくても、かの女はプライドが高い女性だ。自分が一番愛される女性でなくてはつらいだけだろう・・・」
 そう言うと、彼はシャルロットをじっと見つめた。「同じ理由で、ぼくはかの女にもう一度プロポーズしようとは思わなかった。本当は別の女性を愛していて、かの女を口説くのが正しいとは思えなかったからだ」
「かの女はすばらしい女性だったわ」シャルロットが言った。「あなたは、かの女と結婚すべきだったのよ。かの女のことをよく知れば、あなただっていつかは、かの女が世界で一番すばらしい女性だと思うようになったはずよ」
 そう言うと、シャルロットは目を閉じて少しの間黙った。
「・・・かの女のお母さまは、大変な難産の末にかの女を出産されたの。子どもが生まれたあと、お医者さまは、もう一度こうしたことをするのは難しいとおっしゃったそうよ」シャルロットは静かに話し出した。「だけど、かの女は、夫のためにどうしても男の子を残したいと願ったのよ。それで、かの女はもう一度子どもを産もうとしたの。でも、その子は死産だったそうよ。そのとき、子どもを取り上げたお医者さまが警告したんですって。今度出産するようなことがあったら、子どもばかりではなく母親の命も危ないと」
 シャルロットは涙をこぼした。「そして、その予言通り、難産の末にマダム=ド=サックスは亡くなられた。かの女は、出産の直前に、6歳だったファンシェットにこう言ったそうよ。『あなたに、一言だけ言い残したいことがあるの。将来、結婚相手を考えるときには、彼の子どもを産むためになら死んでもかまわないと思える男性を見つけなさい。あなたも、わたしに似た体質だったら、わたしと同じ死に方をすることになるかもしれない。あなたを残して死ぬのは心残りだけど、わたしは、自分の一生を後悔していないわ。あなたは、わたしを恨むかもしれない。でも、いつの日か、わたしの生き方をわかってくれる日が来ると信じているわ』・・・」
 フリーデリックは口に手をあてた。
「かの女にとって、あなたはまさにそういう男性だったのね」シャルロットはしみじみと言った。そして、かの女は涙を拭いた。「もし、そうでなかったら、かの女があなたを誘惑するはずがないわ。そして、かの女は、最後まであなたを愛し続けたんだわ。おなかの中の小さな子どもを守るという行為によって・・・」
 シャルロットはそう言いながら、フリーデリックの髪をもう一度撫でた。「かの女があなたを許したのは間違いないわ。だから、わたしもあなたを許すわ。もっとも、あなたにはわたしの許しは必要ないと思うけど」
「ありがとう」フリーデリックはつぶやくように言った。「ぼくにとって、きみの許しが一番必要だということが、きみにわかるだろうか?」
 シャルロットは首を横に振った。
「ぼくは、ずっときみが好きだった」フリーデリックがもう一度言った。「だが、ぼくは、きみを裏切ったんだ」
 シャルロットは彼の髪の毛をもてあそびながら言った。「わたしも別の男性と結婚するのだから、おあいこだわ」
 フリーデリックは上半身起きあがった。そして、真剣なまなざしをかの女に向けた。
「彼は誠実な人だ。あれほど高潔な人間を、ぼくは外に知らない。あの人ならば、きっときみを幸せにするだろう。・・・そうだ。彼が相手ならば、仕方がない」
 シャルロットは目を伏せた。
「だが、今だけは、ぼくの腕の中にいて欲しい」フリーデリックはそう言いながらかの女を抱きしめた。「頼む。キスして欲しい。それ以上のことは決して求めない。名誉にかけて誓う」
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