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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第81章

第1472回

 ヴァークを見送ったあと、ヴィトールドはそのまま自分の部屋に戻った。
 彼は、フランスを放浪している間に、別の小説を書いていた。その小説<きづたの家>を書き上げたとき、ヴィトールドは、あえてフランスの雑誌に連載小説として掲載することを選んだ。ペンネームもあえてギュスターヴ=フェランを使わなかった。ただ、ギュスターヴ=フェランのアナグラムを使ったので、ヴァーク=ブーランジェのように彼を特定できる人もいるはずだった。ヴィトールドは、その小説の原稿料をもらわなかった。彼は雑誌に掲載されることのみを望んだのである。その小説を書かずにはいられなかった。当時の彼は、愛情に飢えていた。小説のなかでだけは、恋人に愛されたかった。だから、彼は小説を書き続けた。
 その小説に出てくる主な登場人物は3人。親戚同士であり、一緒に育った3人組だ。少年二人は、同じ女の子を愛している。主人公はその女の子シャルロット=ド=ラ=ブラーシュ。男爵の娘だ。舞台は、男爵の別荘<きづたの家>。男爵の妻は既に亡く、彼は一人娘のシャルロットを溺愛していた。その家には、二人の男の子が同居している。一人は、かの女の一つ年上のガブリエル=ラスティニャック。男爵の妻の姉の忘れ形見だ。つまり、シャルロットとはいとこにあたる少年である。この少年は、シャルロットにとっては婚約者でもある。男爵の妻が亡くなるとき、シャルロットを姉の息子と結婚させるようにと言い残したからである。さらに、もう一人、男爵の亡くなったいとこの息子アントーニ=オルシェフスキーという、シャルロットより3歳年上の少年がいた。男爵のお気に入りの少年で、男爵自身は娘がアントーニと結婚してくれれば・・・と密かに願っている。
 やがて、二人の少年は、スイスにある全寮制の学校にはいることになり、シャルロットの元を離れていく。シャルロット自身も別の全寮制の学校へ入れられることが決まり、3人は別々の人生をスタートさせた。彼らは別れる前、庭にあった大きな木に自分たちのイニシャルを刻んだ。そして、休みのたびにここに戻ってこようと約束した。しかし、その約束は一度も果たされることはなかった・・・。
 時は流れ、シャルロットは寄宿学校を卒業した。そのとき、アントーニは軍人を志し士官学校を卒業しようとしていた。ガブリエルは医者をめざし大学に進学していた。三人は、ようやくあの大きな木の下で再会を果たした。1914年7月。まもなく戦争が始まろうとしていた・・・。
 男爵はシャルロットに言った。『お前は、自分が好きなように生きなさい。必ずしも、お前の母親の遺言通りにする必要はない。お前が好きな人と結婚するならば、かの女もきっとわかってくれるはずだ』
 シャルロットはこう言った。『わたしがガブリエルのことをずっと愛していることは、お父さまもよくおわかりでしょう?』
 それに対して、父親はこう答えた。『だが、彼にはお前を幸せにすることはできない。彼は弱い人間だ。お前のような子には、強い男性が必要なんだよ。たとえば、アントーニのような男が』
 シャルロットは答えた。『アントーニが嫌いなわけじゃないわ。ただ、ガブリエルの方が好きなだけよ』
『じゃ、アントーニを選ぶべきだ。彼もお前が好きだ』
 それを聞き、シャルロットは驚いた。かの女にとってアントーニは、優しくて強くて頼りになる兄のような存在だった。だが、そうでしかなかった。彼が自分に対して妹以上の感情を持っていたのには全く気づかなかった。愛していたのは、もう一人の少年だけだったからだ。
『彼は、お前を守るために、軍人を志したんだ』父親は言った。『彼の気持ち、わかってやってほしい』
 シャルロットは混乱して父親の部屋から出た。向かったのは、あの大きな木の所だった。幼かった三人の思い出の場所。
 ガブリエルはそこに立っていた。シャルロットは泣きながら彼の胸に飛び込んだ。
 アントーニは遠くからそんな二人を見つめていた。二人は抱き合った。そして、どちらからともなく二人の唇が重なったのを彼は見た。二人は何も言わずに長い間抱き合っていた。それから、彼は黙ったままその場を去っていった。
 ガブリエルが去ったあとも、シャルロットはその場に留まり、しばらく無言で幹を撫でていた。
 アントーニはそんなシャルロットの前に立った。彼は、唐突に愛の告白を始めた。シャルロットは泣きながら、何度もその告白を途中で止めようとした。しかし、彼は告白をやめなかった。
『ぼくは、きみのためになら死ねる。きみがそれを望まなくても、ぼくはきみへの愛に死ぬ』アントーニはそう言いながらかの女を抱きしめた。『ぼくは、戦場に行かなければならない。たぶん、そこで死ぬことになるだろう。死ぬのは恐くない。ただ、生きていた証が欲しい・・・』
 そういうと、彼はかの女をその場に押し倒した。
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