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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第81章

第1473回

 たまたま引き返してきたガブリエルは、二人が木の下で行っている光景を目の当たりにして、驚いてその場から逃げ去ってしまう。
 ガブリエルに見られたと知ったシャルロットは、自分がしてしまったことを激しく後悔し、アントーニがいつも護身用に持っていたナイフを目にするなり、それで自分の胸を刺す。驚いたアントーニのとっさの判断で、シャルロットは一命を取り留める。
 病院に駆けつけた男爵に、アントーニはいきさつを説明し、謝罪した後あらためて彼にシャルロットへ求婚する許可を願う。男爵は、娘の妊娠の可能性を考慮し、アントーニが戦場に向かう前に結婚させるべきだと判断し、二人の結婚を許す。
 アントーニのプロポーズを拒否したシャルロットに対し、男爵は娘に結婚を強要し、かの女は最終的にしぶしぶ結婚に同意する。
 その結婚式の朝、シャルロットは花嫁の控え室で一通の手紙をしたためる。ガブリエルにあてた謝罪の手紙であった。自分は彼だけを愛していた。だが、自分の罪の結果、彼の愛を受ける資格を失った。それでも、自分が愛してるのはガブリエルただ一人だけだ。彼以外の男性を夫に迎えるつもりはない。もし可能なら、後の世で結ばれることを希望する・・・。かの女はそう書いたあと、服毒自殺を図った。
 アントーニが花嫁を迎えに来たときには、彼の花嫁はすでにこの世の人ではなかった・・・。
 ヴィトールドは、その小説をハッピーエンドにはしなかった。いや、できなかった。小説を書き始めたときは、シャルロットとアントーニを結婚させるつもりでいた。せめて小説のなかでだけは、シャルロットに自分を見つめていて欲しかった。しかし、なぜか小説の登場人物たちはヴィトールドにそれを許さなかった。彼らはヴィトールドの制御を振りきるように勝手に動き出していた。彼は、幸せな小説を書くことができなかった。それは、彼自身が幸せではなかったからだ。彼が不安だったからこそ、彼の分身であるアントーニも幸せでいることはできなかった。ヴィトールドは、シャルロットとコルネリウスが愛し合っていることを知っている。小説のなかでさえ、シャルロットとガブリエルは相思相愛の仲だ。だが、小説の中のアントーニは、実際のヴィトールドよりも大胆だった。アントーニはついにシャルロットを自分のものにしてしまうのである。実際のシャルロットだったら、無抵抗で彼に身を任せるとは思えない。だが小説だから、彼が何をしようとしているかかの女は気づかなかった---という言い訳が成り立つ。だから、かの女は寸前まで抵抗しなかったのだ、と。かの女が抵抗したのは、ガブリエルが現われてからのことだ。彼の姿を見て、自分がどういう状況にあるのか初めて気がついた・・・小説のなかではそういうことになっていた。かの女は彼に犯され、彼のナイフで自殺を図った。そうすることで、彼は実在のシャルロットの名誉をも守ろうとしたのである。
 ただ、実際には、実在のヴィトールドは、かの女に手を出したことは一度もなかったのであるが・・・。
 ヴィトールドはため息をついた。
 ヴァーク=ブーランジェは、小説を読み、自分とシャルロットの仲を誤解した。恐らく、自分たちを知る人たちは、自分とシャルロットがそういう関係にあると思うに違いなかった。今後、同じようなことを、いろいろな人から言われ続けるだろう。
 なんていうことをしてしまったのだろう・・・ヴィトールドはそう思った。自分が誤解されるのは構わない。何を言われようと、あんなことを書いてしまった以上、仕方がないことだ。しかし、軽率だった。こんなことになるのなら、発表すべきではなかった。自分はともかく、シャルロットの名誉は守らなければならなかったのに・・・。
 彼は窓の外を見た。
 もし、自分がシャルロットに同じことをしたとしたら、シャルロットは小説と同じ行動を取るのではないだろうか。コルネリウスに謝罪の手紙を書き、命を絶とうとするのではないだろうか。
 ありえない。
 ヴィトールドはそれを否定した。もし、その仮定が正しければ、かの女はすでにこの世の人ではないからだ。
 シャルロットはウラディーミル=シュトックマン=スクロヴァチェフスキーに汚された。それでもかの女は生きている。実在のかの女は、小説の中のシャルロットよりもずっと強い人間だ。もしかしたら、一人で生きていけるくらい強い人間だ。かの女には、自分は必要ない人間かも知れない。
 だが、自分にはかの女が必要だった。
 シャルロット=ド=サン=メランを愛している。
 どうしてもかの女が欲しい。
 ヴィトールドはもう一度ため息をつき、窓際から離れた。
 今晩も眠れそうもない。
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