FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第81章

第1478回

「あなたの言葉は正しいかもしれない」サヴェルネ夫人が言った。「でも、あなたは、謙遜している。あなたにはできるわ。さっき、ジョゼフが言ったのと逆のことが成り立つはずだからよ。もし、あなたがかの女を愛しているのが本当なら、あなたがたの演奏は必ず人の心を動かせるはず。シャルがあなたの最高の力を引き出せるからよ」
 サヴェルネがうなずいた。
「シャル、あなたは間違っている」サヴェルネ夫人が言った。「あなたが伴奏を頼むべきなのは、わたしではないの。この人なの。そして、あなた方二人でなければ、あなたの友人の心を溶かすことはできないの。もしも・・・」
 サヴェルネ夫人は少しためらった後にこう続けた。「もしも、その友人が、一度でもあなたに好意---この場合は、愛情、かしら?---を持ったことがあるとすれば・・・」
 それを聞いて、シャルロットは真っ赤になった。
「図星だったようね」サヴェルネ夫人はほほえんだ。「そうだと思ったわ。もしそうでなければ、あなたがジョゼフの怒りを承知でここまで来ないだろうと思ったの」
「ロッティ・・・」サヴェルネは夫人をたしなめるような口調で口を出した。
 サヴェルネ夫人は目を輝かせて二人を見つめていた。
「ねえ、シャル」サヴェルネ夫人はシャルロットに言った。「この人のこと、もっと詳しく紹介してちょうだい」
 シャルロットはサヴェルネの方を見た。サヴェルネもうなずいた。
 シャルロットは、あえてノルベールの方を見なかった。そういえば、彼とはまだ一度も挨拶さえしていない。だが、今さら挨拶も間が抜けている。だから、かの女は彼を無視することにした。
「マダム=サヴェルネ」シャルロットはサヴェルネ夫人に言った。「この人は、わたしの恋人じゃないんです。彼は、わたしたちザレスキー一族のリーダーです。今日も、わたしの保護者としての立場でここにいます」
「ザレスキー一族のリーダー?」サヴェルネは、興味たっぷりの視線をヴィトールドに向けた。「音楽一家ザレスキー一族のリーダーが、小説を書いているのか?」
 ヴィトールドはうなずいた。
「彼は、音楽家ではありません。もちろん、ザレスキー一族として、音楽の勉強をしたことはしたんです」シャルロットは言った。「彼は、ヴィオラが得意です。ピアノも少し弾けます。少しと言っても、素人としてはなかなかの腕前です・・・あくまでも素人としては、ですが・・・」
 ヴィトールドは苦笑混じりにうなずいた。
「だが、恋人ではないというのは本当なのかね?」サヴェルネはヴィトールドに訊ねた。
「かの女を愛していることは否定しません。ぼくは、ずっとかの女が好きでした」ヴィトールドは顔色一つ変えずにさらりと言ってのけた。「初めてかの女を見た11歳のときから・・・。当時、かの女は5歳でした」
「4歳よ」シャルロットは訂正した。「あのとき、5歳の誕生日の直前だったから」
「ほう・・・」サヴェルネは二人を交互に見つめてそれだけを口にした。
「ぼくたちは、同じ学校の出身です。ぼくは、卒業後、陸軍士官学校に行きました」ヴィトールドはそう言った。
 聞いていたノルベールの表情が硬くなった。陸軍士官学校・・・。別のペンネームを使っているが、あの<きづたの家>を書いたのは、この人に間違いはない。主人公のまたいとこにあたるアントーニ=オルシェフスキーは、主人公を愛し、守るために陸軍士官学校へと進んだ。ヴィトールド---ギュスターヴ=フェランが士官学校へ行ったことは、シャルロットから聞いている。だが、あのラヴ=レターを書いた内気な青年だったはずのこの人が、まさか、あの小説のように・・・?
「・・・かの女のために戦うため・・・?」ノルベールは思わず口に出してそういった。
 ヴィトールドは、その場にいた黒髪の男性に視線を初めて向けた。二人の視線があった。ヴィトールドは、相手が何らかの悪意を抱いて自分を見つめ返したことに気がついた。
 この人は、<きづたの家>を読んでいる・・・?
 ヴィトールドは彼から目をそらさずにうなずいた。「そうです。かの女に、ポーランドを独立させるために戦争に行くと言い残して士官学校へ行きました」
 ノルベールは青くなっていた。
「ぼくは軍人として戦場に行きました。そして、かの女が愛するポーランドは、今、独立国として各国に認められています」
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ