FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第81章

第1479回

 サヴェルネは、そう言ったときのヴィトールドの誇らしげな表情を見て、ポーランド人の友人のことを思い出した。ヴァレリアン=ブルマイスター。彼は、自分をポーランド人だと宣言し、ポーランド人であることを誇りに思っていた。今、彼の祖国は、立派に独立した。彼は、どんなにこの若者を誇らしく思うことだろう! 彼にこの青年を会わせたかった。シャルロットがこの青年に心を惹かれていることを知ったら、彼はどんなにうれしく思っただろう?
「あなたが愛するポーランド、でしょう?」サヴェルネはそう言った。
「わたしたちのポーランド、です」シャルロットが言い直した。しかし、そう言った直後、シャルロットの顔はくもった。「・・・いいえ、わたしは、ポーランド人ではありませんでしたね」
「ウワディスワフ=スタニスワフスキーがポーランド人ではなかったのと同様に?」サヴェルネはそう言った。「いや、彼はポーランド人だった。ゆえに、きみもそうだ」
 そして、ウィンクして続けた。「・・・それに、どうせ、まもなくそうなるんだろう?」
 シャルロットはほおを赤らめた。しかし、聞こえないふりをすることに決めた。かの女は返事をしなかった。
 ヴィトールドもサヴェルネの言葉を無視していった。「・・・そして、帰ってきてからは、小説に専念しています。ぼくは、決して軍には戻るつもりはありません」
「それは、もう二度とかの女のためには戦わない、という意味?」ノルベールはあえてそう訊ねた。
 ヴィトールドは、今度こそ彼の悪意をはっきりと感じた。なぜ、この青年は、自分をこれほどまでに敵視するのだ?
「かの女は、二度と武器を取るなと言ったんだ」ヴィトールドは、軍隊にいたときに不躾な下士官たちに対して取ったのと同じような尊大な態度を見せて言った。「あなたも軍にいたことがあるならわかるはずだ。上官の命令は絶対だからな」
 下士官だったノルベールは、そんなヴィトールドの態度を見てひるんだ。
「そういうことだ、いいな?」ヴィトールドはそう言うと、彼の方から目をそらすまで待ってから視線をはずした。
 ノルベールはもう何も言い返さなかった。ただ、ヴィトールドに対して反感を抱いただけだ。なぜ、こんな男にシャルロットは夢中になったのだ? 彼には何もわからなかった。
 シャルロットはその様子を見て、ヴィトールドが軍隊で高い地位にあったことを初めて認識した。考えてみれば、ヴィトールドが軍人だったと思ったのは、これが初めてだったかも知れない。彼が勲章を一杯ぶら下げた軍服を着ているときでさえ、彼を軍人だと思ったことがなかったのに、今の彼は軍人のような雰囲気を漂わせていた。もっとも、サント=ヴェロニック校出身者の例に漏れず、演劇コンクールで培った才能を発揮しているだけなのかも知れない。サント=ヴェロニック校出身者は、多かれ少なかれ、演技することになれている。今のヴィトールドの演技を見れば、主演男優賞は無理でも最優秀演技賞候補にノミネートしてもいいくらいだ。シャルロットはノルベールの方に視線を向けた。ノルベールは、今のやりとりの結果、明らかにヴィトールドに不満を抱いたようだ。彼のアーモンド色の目を見る限り、その感情は敵意だといってもいいかも知れない。もともと、ノルベールはヴィトールドに好意を持っていないはずだった。彼の様子を見て、ヴィトールドだってそれを感じ取っていたはずだ。どうしてあえて彼を怒らせる行動を取ったのだろうか?
「あなたは、もう、大佐じゃないのよ」シャルロットはヴィトールドをたしなめるように言った。「それに、この人はあなたの部下じゃありません。今の態度は許せないわ」
 その言葉を聞くと、ヴィトールドは叱られた子犬のような表情を浮かべた。ほんの一瞬のことだったが、ノルベールはそれを見落とさなかった。
「申し訳ない」ヴィトールドはノルベールに言った。その口調からは、さっきの尊大さは消えていた。彼は心から謝罪の言葉を口にしていた。「つい、頭に血が上ってしまった」
 しかし、ノルベールはそっぽを向いたままだった。
 シャルロットは、たしなめるような口調で言った。「ノルベール・・・?」
 その声を聞き、ノルベールは不満そうな表情でシャルロットを見た。
「なぜだ? どうしてなんだよ?」ノルベールは小声でそうつぶやき、部屋から飛び出していった。
 その様子を、サヴェルネ夫人がせつなそうに見つめた。《かわいそうに・・・》とその唇が動いた。
 シャルロットはヴィトールドにささやいた。「・・・あの人は、小説家ベネディクト=リュミエールよ」
「ベネディクト=リュミエール・・・?」ヴィトールドはかすれた声で繰り返した。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ