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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第81章

第1480回

 ヴィトールドは、ノルベールが<ギュスターヴ=フェラン>という名前を聞いたときの反応を思い出していた。彼とは初対面だったが、因縁のライヴァル同志だった。もともと同じ文学コンクール出身者の二人。ヴィトールドが一位で、ノルベールが二位。ことあるごとに比較され続けた二人だった。彼の最新作<まどぎわのベッドの上で>は、常にヴィトールドの<灰色の海>と比較されて論じられる。もともと、二つの作品は全く別物だったのにもかかわらず。
 だが、ヴィトールドにもわかった。二つの作品が並べて論じられる本当の理由が。それは、どちらの作品のヒロインも、同じ女性をモデルにしていたからだった! 彼がベネディクト=リュミエールである以上、彼が作品で描いている女性はシャルロット=ド=サン=メランに間違いなかった。自分はそれに気づかなかったが、たぶん、彼はそれを知っていた。
「彼は、きみが好きだったのか?」ヴィトールドはポーランド語で訊ねた。
 サヴェルネは、その問いの意味がわかる程度にはポーランド語を解した。彼はシャルロットの方を見た。
「彼とわたしは、友達よ」シャルロットはポーランド語で答えた。「わたしたちは、男女間にも本当の友情が成立するかという命題に取り組んでいたのよ」
 その答えを聞き、ヴィトールドは驚いたようにシャルロットを見つめた。サヴェルネのほうは、その答えを何度も耳にしている。しかし、今あらためてその答えを聞かされたとき、サヴェルネはその答えがノルベールにとってどんなに残酷なものであったのかを悟った。ノルベールは、シャルロットを心から愛していた。ノルベールがこれまで取ってきた態度、サヴェルネ夫人と話していた内容を考えると、それは明白な事実だった。ただ、ノルベールが愛した女の子は、恋愛対象とするにはあまりにも幼かった。ノルベールはかの女と一緒にいたいがために、かの女を安心させる口実を作ったのだ。友情以外の言葉を口にしたとき、かの女が彼を拒絶することに耐えられなかったからだ。
「・・・で、きみは、今でもそれを信じているのか?」ヴィトールドがかすれた声で訊ねた。
 シャルロットはヴィトールドの目をのぞき込んだ。「・・・わたしは、信じたいのよ」
 その答えを聞くと、ヴィトールドは力なく椅子に座り込んだ。
 今の会話を理解していないサヴェルネ夫人は、そんなヴィトールドの様子を驚いて見つめた。
「わたしは、彼と友達でいたかった・・・」シャルロットはフランス語でそうつぶやき、下を向いた。
「ぼくは、彼と友達にはなれない」ヴィトールドはそうつぶやき、ドアの方を見た。
「でも、あなたにも、彼と友達になって欲しかった・・・」シャルロットは優しくそう言い、ヴィトールドの手を握りしめた。
 サヴェルネは、シャルロットが精神的にも大人になったと思った。今のかの女は、彼が知っている幼い女の子ではなかった。さっきの演奏もそうだし、今の様子を見てもそうだ。かの女は間違いなくこの青年を愛している。
 サヴェルネ夫人は優しく言った。「シャル、それは無理なのよ」
 シャルロットはサヴェルネ夫人を見た。
「男性と女性は、決して本当の友達にはなれないの」サヴェルネ夫人はそう告げた。「少なくても、どちらかに恋愛感情があるときにはね」
 シャルロットははっとしてサヴェルネ夫人を見つめた。
「そして、同じ女性を愛している二人の男性が仲良くなるのも無理なのよ」サヴェルネ夫人は優しく言った。「少なくても、どちらかがかの女を愛することをやめない限り」
 そして、かの女は夫の手を握りしめた。「・・・そうでしょう、ジョゼフ?」
 その言葉を聞き、サヴェルネは涙ぐんだ。自分は、たとえ知らなかったとはいえ、親友が憧れていた女性を自分の妻にしてしまった。もし、あのとき、彼の親友が彼の思いではなく、自分の思いをかの女に伝えていたとしたら・・・それでも、自分は彼を親友と呼び続けることができただろうか・・・?
「・・・すべては、時間が解決してくれる」サヴェルネはそう言った。「ノルベールになら、きっとわかるはずだ」
 だが、サヴェルネ夫人はゆっくりと首を振った。
「あら、彼にはわかっていますよ。あなたは、<まどぎわのベッドの中で>をお読みにならなかったの?」サヴェルネ夫人が言った。「・・・違うのよ。問題の根底にあるのは、この男性の存在なのよ」
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