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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第8章

第148回

「で、バローをどう思ったの?」マスターが訊ねた。「同じ作曲家なら、彼が気に入ったんじゃない?」
 クラリスはちょっと考えた。「そうね・・・。彼はすばらしい作曲家だと思います。でも、わたしは、彼と同じ道を歩くことはないと思います。彼もそんなことを言いました」
「彼って、バローが、そんなことを?」オーギュスト=デュランが驚いて言った。
 クラリスは黙ってうなずいた。
「へえ、バローがねえ・・・」オーギュスト=デュランは、今度は感心したように言った。
「あなたとバローは、知り合いなの?」クラリスが訊ねた。
「わたしは、どうやら知名度が低いらしい」オーギュスト=デュランは、みどりの大きな目をわざと動かしながら言った。「わたしは、アンリ=ロランの弟子の一人で、あの有名な<マルタン派>に対して<ノートルダム派>を名乗っているんだ」
「つまり、あなたは、ロランの正統派の弟子なのね」
「まあね。わたしはそう思っているけど」
 クラリスは吹き出しそうになったので真面目な顔をした。「つまり、あなたは、バローに反対の立場なのね?」
「そうだね。ここにくる連中は、ほとんどバローに反感を持っている。ところで、あなたは、ここがどんな連中のたまり場か知らないの?」
「オーギュスト、<たまり場>はないだろう?」マスターが抗議した。
「知らないわ」クラリスが答えた。
「ここに来るのは、純粋な音楽家たちだ。流行とは関係ない、自分がやりたいようにやっている人たちの集まりだ。そこが<レザンフェール>なんかと違うところだ。だから、ここにやってくる作曲家は、ロランの弟子とルブランの弟子が多いね」
「でも、ロランとルブランは確か・・・?」
「本人同士は仲が悪くても、弟子たちまでそうだとは言えないよ。ロランとルブランは、正統的な音楽家だという点では共通しているからね」
「昨日、バローも同じようなことを言っていたわ」クラリスは考え込みながら言った。「ただ、バローに言わせれば、二人とも規則でがんじがらめになっていて保守的だと言うところが共通している・・・ということになるようだけど」
「いかにも、やつが言いそうなことだ」オーギュスト=デュランが反感を込めて言った。
 そのとき、ヘルムート=シャインとアレキサンダー=ペコーがあらわれた。
 シャインは、クラリスを見ると嬉しそうに駆け寄った。
「やあ、来てくれたんですね?」シャインはクラリスの手を取って言った。
「気が変わったんです」クラリスが答えた。
「それが、あなたにとって一番いいんです」シャインはうなずきながら言った。
 クラリスはほほえんだ。「わたしも、今日はそう思います」
 そして、かの女はペコーとも握手した。
「こんなに早く再会できるとは、嬉しい限りです」ペコーも嬉しそうであった。
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