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1920年1月。
シャルロットたちは、最後の行事(フランソワとナディアの結婚式)に出席するため、マルセイユ滞在を延ばしていた。しかし、マルセイユで予定していた行事がすべて終わったあとも、シャルロットはマルセイユに留まることを決めていた。穏やかなマルセイユで冬を過ごしてからローザンヌに戻った方がいいと話し合った結果のことだった。ただ、ロジェは雑誌の仕事を長い間リオネルに任せきりにしていたので、結婚式の一週間後に彼らよりも一足先にローザンヌに戻ることにしていた。シャルロットは4月の復活祭が終わってからヴィトールドと一緒に戻るつもりだった。
彼らの滞在が長引きそうだとわかった時点で、マルセイユの屋敷には何人かの使用人がローザンヌから移ってきていた。特に、フェリシアーヌ=ブーレーズがこちらに来たことで、ロジェは安心してローザンヌに戻れると思った。かの女ならば、お目付役にぴったりだった。彼は、シャルロットとヴィトールドをなるべく二人きりにしないように気を利かせるようにと依頼したのである。ただ、その心配はあまりなかった。ヴィトールドは新しい小説を書き始めたところで、シャルロットと話をすることが少なくなっていたからだ。現在、二人が顔を合わせるのは、三度の食事と、3時の休憩時間の時だけだった。その4回とも、二人きりになることはない時間だったのである。
フランソワとナディアの結婚式は、有名人の結婚式としては質素に行われた。そして、彼らは、披露宴が終わった直後、イギリスへ向かって旅立っていった。フランソワは、新生活の場所をロンドンにしたからである。彼は、新しい妻と生まれてくる子どものためにロンドンの音楽院に職を見つけた。海外暮らしが長いナディアは、外国での暮らしを厭わなかった。
結婚式の翌日、マルセイユの屋敷に珍しい人物が訪れた。
たまたま不在だった執事のかわりに玄関を開けたヴィトールドは、彼の姿を見て真っ青になった。
「・・・ああ、わたしが幽霊に見えますか?」訪問者はそう訊ねた。
その声を聞くと、シャルロットは青ざめた。ロジェはそんなかの女を見て、立ちあがった。
「・・・よし、幽霊を追い払ってくる」ロジェはそう言った。
「やめて、ロジェ」シャルロットも立ちあがった。「わたし、自分で幽霊と対決するわ」
そして、シャルロットは玄関に出た。
「ロッティ? 無事だったんだね?」
シャルロットは彼に言った。「それは、こっちのせりふよ、ウラディ」
そこに立っていたのは、ウラディーミル=シュトックマン=スクロヴァチェフスキーだった。
「元気だった? どうして一人なの?」シャルロットは彼にそう訊ねた。
その問いを聞き、顔をくもらせた彼の様子を見て、シャルロットは彼を中に案内した。
彼の姿を見ると、ロジェは気色ばんだ。「何の用だ?」
シャルロットはロジェをたしなめた。「ロジェ。この人は幽霊じゃないわ」
「知っている。彼は、きみの・・・」ロジェは唇をかみしめた。
「わたしの、何?」シャルロットは優しく言った。そして、言葉をつまらせた彼に言った。「彼は、わたしの友人よ」
ヴィトールドも硬い表情でうなずいた。
ウラディーミルは、しばらくの間ヴィトールドを探るように見つめていた。それから、シャルロットに視線を移した。そして、唐突に言った。
「きみは、妊娠していないんだね?」
シャルロットはその問いを聞き、きょとんとしてウラディーミルを見つめた。
「誰の子をだ?」ロジェはまた気色ばんだ。「きみはまさか、また大天使ガブリエルの役回りを果たそうと言うんじゃないだろうな?」
シャルロットはロジェの袖を引っ張った。「喧嘩を売るのはやめてちょうだい。それより、どういうことなの、ウラディ?」
ウラディーミルはヴィトールドをにらみつけていた。
「大天使ガブリエルの役回りって? あなたは、ロジェの夢に現われて何か言ったの?」シャルロットは首をかしげた。
ウラディーミルは、穴があくほどシャルロットを見つめた。
「きみは、本当に何も知らないんだね?」彼はそう言った。
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1920年1月。
シャルロットたちは、最後の行事(フランソワとナディアの結婚式)に出席するため、マルセイユ滞在を延ばしていた。しかし、マルセイユで予定していた行事がすべて終わったあとも、シャルロットはマルセイユに留まることを決めていた。穏やかなマルセイユで冬を過ごしてからローザンヌに戻った方がいいと話し合った結果のことだった。ただ、ロジェは雑誌の仕事を長い間リオネルに任せきりにしていたので、結婚式の一週間後に彼らよりも一足先にローザンヌに戻ることにしていた。シャルロットは4月の復活祭が終わってからヴィトールドと一緒に戻るつもりだった。
彼らの滞在が長引きそうだとわかった時点で、マルセイユの屋敷には何人かの使用人がローザンヌから移ってきていた。特に、フェリシアーヌ=ブーレーズがこちらに来たことで、ロジェは安心してローザンヌに戻れると思った。かの女ならば、お目付役にぴったりだった。彼は、シャルロットとヴィトールドをなるべく二人きりにしないように気を利かせるようにと依頼したのである。ただ、その心配はあまりなかった。ヴィトールドは新しい小説を書き始めたところで、シャルロットと話をすることが少なくなっていたからだ。現在、二人が顔を合わせるのは、三度の食事と、3時の休憩時間の時だけだった。その4回とも、二人きりになることはない時間だったのである。
フランソワとナディアの結婚式は、有名人の結婚式としては質素に行われた。そして、彼らは、披露宴が終わった直後、イギリスへ向かって旅立っていった。フランソワは、新生活の場所をロンドンにしたからである。彼は、新しい妻と生まれてくる子どものためにロンドンの音楽院に職を見つけた。海外暮らしが長いナディアは、外国での暮らしを厭わなかった。
結婚式の翌日、マルセイユの屋敷に珍しい人物が訪れた。
たまたま不在だった執事のかわりに玄関を開けたヴィトールドは、彼の姿を見て真っ青になった。
「・・・ああ、わたしが幽霊に見えますか?」訪問者はそう訊ねた。
その声を聞くと、シャルロットは青ざめた。ロジェはそんなかの女を見て、立ちあがった。
「・・・よし、幽霊を追い払ってくる」ロジェはそう言った。
「やめて、ロジェ」シャルロットも立ちあがった。「わたし、自分で幽霊と対決するわ」
そして、シャルロットは玄関に出た。
「ロッティ? 無事だったんだね?」
シャルロットは彼に言った。「それは、こっちのせりふよ、ウラディ」
そこに立っていたのは、ウラディーミル=シュトックマン=スクロヴァチェフスキーだった。
「元気だった? どうして一人なの?」シャルロットは彼にそう訊ねた。
その問いを聞き、顔をくもらせた彼の様子を見て、シャルロットは彼を中に案内した。
彼の姿を見ると、ロジェは気色ばんだ。「何の用だ?」
シャルロットはロジェをたしなめた。「ロジェ。この人は幽霊じゃないわ」
「知っている。彼は、きみの・・・」ロジェは唇をかみしめた。
「わたしの、何?」シャルロットは優しく言った。そして、言葉をつまらせた彼に言った。「彼は、わたしの友人よ」
ヴィトールドも硬い表情でうなずいた。
ウラディーミルは、しばらくの間ヴィトールドを探るように見つめていた。それから、シャルロットに視線を移した。そして、唐突に言った。
「きみは、妊娠していないんだね?」
シャルロットはその問いを聞き、きょとんとしてウラディーミルを見つめた。
「誰の子をだ?」ロジェはまた気色ばんだ。「きみはまさか、また大天使ガブリエルの役回りを果たそうと言うんじゃないだろうな?」
シャルロットはロジェの袖を引っ張った。「喧嘩を売るのはやめてちょうだい。それより、どういうことなの、ウラディ?」
ウラディーミルはヴィトールドをにらみつけていた。
「大天使ガブリエルの役回りって? あなたは、ロジェの夢に現われて何か言ったの?」シャルロットは首をかしげた。
ウラディーミルは、穴があくほどシャルロットを見つめた。
「きみは、本当に何も知らないんだね?」彼はそう言った。
もくじ
年代記 ~ブログ小説~

総もくじ
年代記 第一部

総もくじ
年代記 第二部

総もくじ
年代記 第三部

- ┣ *****第3部について*****
- ┣ 第46章
- ┣ 第47章
- ┣ 第48章
- ┣ 第49章
- ┣ 第50章
- ┣ 第51章
- ┣ 第52章
- ┣ 第53章
- ┣ 第54章
- ┣ 第55章
- ┣ 第56章
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- ┣ 第103章
- ┣ 第104章
- ┣ 第105章
- ┣ 年代記 第四部
- ┣ *****第4部について*****
- ┣ 第106章
- ┣ 第107章
- ┣ 第108章
- ┣ 第109章
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