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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記 SIDE-B」
第82章 B

第1489回

 シャルロットは小さな声で言った。「あなたがつかんでいた手首の青あざだけは、ずっと消えなかった」
 ウラディーミルは「すまなかった」と小さな声で謝った。そして、少し大きな声でもう一度促した。「・・・そのほかには?」
 シャルロットは首をかしげた。
「そのほかに、どこか傷ついたところはなかったか?」ウラディーミルが言った。「もちろん、心の痛みは別として」
 シャルロットは首を横に振った。
 ウラディーミルのほおが少し赤くなった。
「実は、あの晩・・・わたしは、最後までできなかったんだ・・・」ウラディーミルが告白した。「わたしは、きみのすべてを手に入れたわけではなかった。きみは、処女のままなんだよ」
 シャルロットは驚いてウラディーミルを見つめた。
 ウラディーミルは真っ赤になってうなずいた。
「おかしいと思わなかったか? どうして血を流さなかったのだろうと思わなかったか? なぜ死ぬほどの痛みを感じなかったんだろうと思わなかったか?」ウラディーミルは優しく訊ねた。
 シャルロットも彼の様子を見ているうちに真っ赤になっていた。
「わたしは、初めてだったんで、どうしていいかわからなかったんだ」ウラディーミルは恥ずかしそうに言った。「そのうちに・・・その・・・」
 シャルロットは「もういいわ」と彼の話を遮った。
 そして、かの女は言った。「動転していたの。絶望していたの。もう、何も感じられない状態だった。わたしの話を聞いた人たちは、わたしが痛みの話をしなかったことに気づいてもいなかったのかも知れない・・・」
 かの女は一息ついて続けた。「だけど、はじめてのとき、出血しない女性もいると聞いたわ。たとえば、わたしのように乗馬ができる女性は、出血しないこともあるんですって。そう聞いて、そのことについて不思議には思わなかったの」
 ウラディーミルは黙ってうなずいた。
「月のものが来れば妊娠していないことを確認できると聞いた後で、それがやってきたときの安心感・・・あなたにはわからないでしょうね」シャルロットが言った。「妊娠していないとわかって、本当にうれしかった」
 かの女はそう言うと、ウラディーミルにほほえみかけた。「だけど、もし、妊娠していたとしたら、あなたの子どもを産むつもりだった。それだけは覚えておいて」
 ウラディーミルは驚いたようにかの女を見つめた。
「あなたと結婚するつもりはなかったけど、子どもは宝物だわ」シャルロットが言った。「あなたのしたことは許されないことだけど、あなたを許すつもりだった。子どもにとっては、あなたは父親だったから・・・」
 そして、シャルロットは優しく言った。「わたしは、あなたを責めたことは一度もなかった。本当よ。だって、悪いのは自分だと思っていたんですもの。でも、今ならわかる。自分は悪くなかったと」
 ウラディーミルはうなずいた。「そうだ、きみは悪くない」
「話してくれて、本当にありがとう」シャルロットはもう一度ウラディーミルの手を取った。
「許してくれ」ウラディーミルはもう一度言った。
「あなたは、わたしの友達よ」シャルロットが言った。「このあとも、ずっと友達でいられるといいんだけど」
 ウラディーミルはうなずいた。
「わたしからの友情の証として、一つだけ、受け取ってもらいたいものがあるの」シャルロットが言った。「アメリカ行きの乗船切符よ」
 ウラディーミルは抗議しかけた。
「ぜひ受け取ってもらいたいの。一日でも早く、故郷に戻ってちょうだい。そして、あなたのお父さまを安心させてあげて。わたし、みんなに幸せになってもらいたいの・・・」
 ウラディーミルはうなずいた。
「わかった。・・・きみも、幸せになるんだよ」彼はそう言って涙をこぼした。
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