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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記 SIDE-B」
第82章 B

第1491回

 その翌日、シャルロットの元に一通の手紙が届いた。ポーランドのアファナーシイ=ザレスキーからのものだった。二人は、シャルロットがポーランドを出たとき以来、ずっと文通を続けていた。一方、ヴィトールドは祖父とは文通していない。彼らは、喧嘩別れしたままの状態である。祖父の方も、シャルロットがヴィトールドと一緒に住んでいることを知っていても、手紙で孫のことを一言も触れたことはない。それでも、二人はお互いに気にしあっていることをシャルロットは知っていた。
 さて、その日、シャルロットは手紙を読んでしばらく物思いにふけっていた。元気をなくした・・・という表現の方が適切だったかも知れない。かの女は、昼食にも顔を出さず、部屋に閉じこもったままだった。
 3時に休憩を取ろうとヴィトールドが部屋に顔を出したとき、シャルロットは涙ぐんで手紙を見つめていた。
「どうしたの、お昼にも顔を出さないで?」ヴィトールドは言った。「気分転換にお茶でもどう?」
 シャルロットは物憂げに顔を上げた。
「おじいさまが、何か言ってきたの?」
 シャルロットはため息をついてから言った。「手紙を読んでみる?」
 ヴィトールドは即座に言った。「いや、読まない」
 しかし、シャルロットは彼の目の前に手紙を差し出した。
「《きみには失望した》」ヴィトールドは声に出して読み上げた。「《ブローニャ、どうか、理性を取り戻して欲しい。きみは、フランショーム家の青年と結婚しなければならない運命なんだ。わたしの孫のことは、どうか諦めてくれ。こんなことをきみに言いたくはない。すでに、わたしはきみを自分の孫だと思っている。しかし、きみを孫と呼ぶことはできても、本当の孫にすることはできない。何度でも言おう。お願いだ、どうかヴィテックを諦めてくれ。きみにこんなことを頼みたくはないが、わたしは、自分の責任を果たさなければならないんだよ。わたしがアファナーシイ=ザレスキーである以上、この結婚だけは何があっても認められないんだ》」
 シャルロットはすすり泣いた。
「おじいさまとしては、ずいぶん控えめな表現だな」ヴィトールドは嘲笑するような口調で言った。「相手がぼくだったら、言葉を選ばなかっただろう。この手紙を翻訳すると、ぼくにこう伝えろと言うことだな。《シャルロットと結婚するのなら、おまえをザレスキー家のリーダーとは認めん》と」
 シャルロットのすすり泣きの声が大きくなった。かの女も、彼の手紙をそう読んだのである。「ごめんなさい。わたしは、またあなたたちの不和の原因を作ってしまったんだわ!」
「大丈夫だ。ぼくは、おじいさまと結婚するわけじゃない」ヴィトールドはそう言った。
「冗談になってないわ」シャルロットは泣き続けた。
「彼が反対するのは、わかりきっていたことじゃないか」ヴィトールドはむっとしたように言い、手紙を封筒に戻し始めた。
 シャルロットは涙をためた目でヴィトールドを見た。「でも、もしかすると、わたしの気持ちが通じるかも知れないと思ったのよ。もし、わたしの気持ちを知ったら、彼の気持ちが和らいでくれるのでは・・・と。立場上、どうしても認めることができないとしても、せめて祝福だけでも・・・と思ったの・・・」
 ヴィトールドは唇をかみしめた。「きみは、アファナーシイ=ザレスキーという人を知らないんだ」
 シャルロットは首を振った。「いいえ。わたしは、彼を知っている。わたしは、本当の彼を知っている・・・」
 そして、シャルロットは下を向いた。
「・・・せめて、少しでも、彼の愛を感じられたら・・・」シャルロットはまた泣き始めた。
 ヴィトールドは思った。少しでも、だって? かの女はいったい手紙の何を読んだんだ? 手紙の行間にあふれているのは、彼の愛だけではないか。もし、自分が相手だったら、彼はもっと容赦なく非難の言葉を書き連ねただろう。しかし、この手紙は、彼が苦しんでいることしか伝えていない。彼は、シャルロットを本当の孫のように愛している。本当は、こんな言葉を書き連ねたくはない・・・という彼の思いが、ヴィトールドには伝わっていた。
《ブローニャ。わたしのかわいい、もうひとりの孫娘。わたしの孫と結婚してくれると決心してくれてありがとう。彼を幸せにしてやって欲しい。きみなら、きっとそうできるはずだ・・・》彼が本当に書こうとしていたのは、この言葉だけだった。ヴィトールドはそれがわかっていた。しかし、シャルロットにはそれがわからないらしい。途方にくれているシャルロットを見つめながら、ヴィトールドはそう思った。
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