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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記 SIDE-B」
第82章 B

第1493回

 その日の夜、ヴィトールドは再度シャルロットの部屋を訪ねた。あいかわらずぼんやりとしていたシャルロットに向かって、ヴィトールドは言った。
「ごめん、ティーニャ。さっきの言い方は悪かった」
 シャルロットはちいさく首を振った。
「少し、冷静になって話をしようと思って時間をおいた」ヴィトールドが言った。「あの・・・座っていいかな?」
「どうぞ」シャルロットは返事した。
 ヴィトールドは、空いている椅子に座ると、ゆっくりと話し始めた。
「ぼくにも、ぼくなりの情報網がある」ヴィトールドは落ち着いた声で言った。「ぼくは、家出して以来、またいとこにあたるライモンド=コヴァルスキーと連絡を取り合っている。ポーランドで何が起こっているのか、親戚たちがどうしているのかは、逐一彼が知らせてくれている」
 そして、彼はウィンクした。「コヴァルスキー家に属する3人の娘たちのすべてが結婚してしまったことも、ぼくは知っている」
 シャルロットは少し驚いたような表情を見せたが、ゆっくりとうなずいた。その情報は、アファナーシイ=ザレスキーからの手紙で知っていた。ライモンドの姉と妹は戦争中に結婚していたし、アファナーシイのお気に入りであるユーリア=クリモヴィッチュヴナも昨年、クリモヴィッチ家の養子同様に育てられたルドヴィーク=レーベンシュタインと結婚してしまった。アファナーシイにとっては、ユーリアの結婚が一番ショックだったようで、これでヴィトールドと結婚できそうなコヴァルスキー一族の娘がいなくなってしまった・・・と嘆いていたことはシャルロットも知っていた。
「そのために、おじいさまが、落胆したと言うこともね」ヴィトールドはそう言って笑った。
 だからといって、アファナーシイは、シャルロットには、ヴィトールドを頼む、という言葉を一言も発したことはなかった。アファナーシイにとってシャルロットは孫同様の人間だったが、ヴィトールドのフィアンセ候補と言うよりは、フランショーム一族との架け橋になる人間だったのである。彼はことあるごとに、シャルロットとコルネリウスの結婚を祝福する言葉を書き連ねていた。当然二人が結婚するものだと彼は思っていた。かの女は、コルネリウスとの間に起こったことをすべて書いていた。コルネリウスがほかの女性と結婚するかも知れないと書いたときにはかなり落胆し、フランショーム一族のリーダーとなった若者の元クラスメート(自分の孫のことを表すのに、そんな表現をとったアファナーシイの頑固さも相当だったが・・・)の力をできるだけ借りるように、とも書いた。だが、アファナーシイは、シャルロットが当の<フランショーム一族のリーダーとなった若者の元クラスメート>を本気で愛するようになるとは想像もしなかったらしい。
「一方で、おじいさまはきみのことをとても心にかけていた」ヴィトールドが言った。そして、彼は笑った。「・・・ついでに言えば、ライモンドもだ。彼は、クラコヴィアクのブローニャに婚約者がいることをつねづね残念に思っているようだった」
 シャルロットは目を丸くした。会ったこともない男性に好意を持たれていると聞いても、ピンとこない話だった。
「そういうわけかどうかは知らないが、彼も独身だ」ヴィトールドはもう一度ウィンクした。「だが、きみを彼に渡す気はない」
 シャルロットは困ったような顔をした。
「ぼくがきみを愛していることを、彼は知っている。だから、その事実は、恐らくおじいさまの耳には入っていたはずだ」ヴィトールドが言った。「おじいさまが怒っているとしたら、きみに対してではなく、ぼくに対してだ。きみは、彼のお気に入りの孫だ。母を溺愛していたように、彼はきみを愛している」
「でも、今度のことで、彼は相当怒っているようだわ」シャルロットが言った。「わたし、彼はきっとわかってくれると信じていたのよ。だから、自分の気持ちを正直に伝えたわ」
「どんなふうに?」
 シャルロットは真っ赤になって下を向いた。「あなたには言えないわ」
「いや、ぜひ聞きたいな」ヴィトールドはにっこりして促した。
 シャルロットはわざとこう言った。「どうしても知りたかったら、おじいさまに聞いて」
 彼は顔をしかめた。「聞いたとしても、教えてくれるとは思えないがね」
「そんなこと、わたしの口からは言えないわ」シャルロットは恥ずかしそうに目をそらした。
 そして、かの女はぽつりと言った。「・・・でも、わたしの誠意が足りなかったのね、きっと。話せばわかってもらえると思っていたのに・・・」
 シャルロットはそう言うと、涙目になった。
「そうよ。あれでは足りなかったんだわ。もっとたくさんの言葉で、あなたの孫を愛していると伝えなければならなかったんだわ・・・」
 ヴィトールドはにやにやした。「いや、その言葉を聞きたがっているのは、祖父ではなく、孫の方なんだが」
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