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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記 SIDE-B」
第82章 B

第1494回

 シャルロットは涙をためた目でヴィトールドを見つめた。一瞬ぽかんとしたその顔が、さらに赤くなった。
「もうっ・・・!」シャルロットははじかれたように立ちあがった。
 ヴィトールドも立ち上がり、シャルロットを抱きしめた。
「さあ、言ってくれ。どんなにぼくを愛しているのか、いくらでも聞きたい」ヴィトールドはかの女にささやいた。「ぼくは、おじいさまのように腹を立てたりはしないから」
 シャルロットは身をふりほどいた。
「ね、頼むから、聞かせて欲しい」ヴィトールドは優しく言った。
 シャルロットは彼に背を向けた。「真面目に話をするつもりがないのなら、出て行って」
 シャルロットはそう言うと、ゆっくりと涙を拭いた。「わたしは、今、冗談を言う気分にはなれない・・・」
「ごめん、ティーニャ」ヴィトールドは真剣な口調で言った。
 そして、彼はもう一度椅子に座った。
「祖父は、一人で3人の子どもを育てた」ヴィトールドが言った。「彼は、自分の娘と、自分のきょうだいが残した息子たちを育てたんだ。母は、二人のいとこたちと暮らしているうちに、そのうちの一人と恋に落ちた。だが、その相手は、祖父が望んだ方の人間ではなかった」
 シャルロットはうなずいた。
「彼は、どうしても、娘を兄の息子と結婚させたかった。亡くなった兄の遺言だったから」ヴィトールドが言った。「母は、いとこのジグムンドと結婚させて欲しいと何度も何度も頼んだそうだ。頑固なかの女の父親は、その結婚を阻止するためにいろいろと妨害策を考えたらしい。そして、最終的に、二人を物理的に引き離した」
 シャルロットはちいさくうなずいた。
「祖父は、男性たち二人ともクラークフの大学に進学させることを決めた」ヴィトールドは続けた。「本来なら、母の方をどこか全寮制の学校へ入れるべきだったのだろうが、彼は娘を手放したくはなかったんだ。それほど、彼は娘を溺愛していた。クラークフへ行く前の夜、ジグムンドは母の部屋に行き、大事にしていたロザリオを手渡し、希望を持って待つように伝えたのだそうだ。当事者二人が亡くなった今、詳しい事情はわからない。だが、その夜のことを、ジグムンドはいとこ---ライモンドの父親だ---に手紙でそんなふうに伝えたそうだ」
「・・・それで、ジグムンドさんは、クラークフでお亡くなりに・・・?」
 ヴィトールドはうなずいた。
 シャルロットはぽつりと言った。「・・・やっぱり、悲しい希望なのね・・・」
 かの女はポケットからロザリオを出した。そして、それをヴィトールドの手に押し込んだ。
「やはり、これはあなたが持つべきものだわ」シャルロットが言った。「わたしの祈りは届かなかった。だから、今度はあなたがお祈りして」
 ヴィトールドは手を開き、ロザリオを見つめた。
「あなたの祈りなら、あなたのお母さまとジグムンドさんが、天国で真剣に取り次いでくれるかも知れないわ」シャルロットが言った。
 ヴィトールドは声をつまらせた。「きみは・・・?」
 シャルロットは目に涙をためてうなずいた。「もちろんよ。毎日お祈りしていたわ。あなたが戦場から無事に帰ってくるように。あなたが帰ってきた後は、あなたが幸せになるように。そして・・・」
 シャルロットは恥ずかしそうに下を向いた。
「・・・そして、ぼくたちがいつか結婚できるように・・・?」ヴィトールドの声がかすれた。
 ヴィトールドにとって意外なことに、シャルロットの首がまっすぐに下におりた。
 ヴィトールドは我慢できずにかの女を抱きしめた。それから、彼はいったんかの女の顔を見てこう言った。
「ありがとう。おかげで無事に帰ってこられた。ぼくは幸せだよ、ティーニャ」
 そして、彼はもう一度力を込めてかの女を自分に引き寄せた。
 彼は出し抜けに手をはなすと、にやりとした。「もっと愛の言葉を聞きたいが、欲張らないことにするよ」
 シャルロットは当惑したような表情を浮かべていた。
「これは、受け取っておくよ。きみからの愛の印として」ヴィトールドはそういうと、ドアに向かって歩き出した。
 彼は、ドアに手をかけて振り返った。
「・・・言い忘れていたが、きみを心から愛している」ヴィトールドはそう言い、部屋から出て行った。
 シャルロットは、部屋に鍵をかけながらつぶやいた。
「・・・こんな変な一日が、これまであったかしら?」
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