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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記 SIDE-B」
第82章 B

第1496回

 シャルロットはショックのあまり、その場に膝をついて泣き出した。
 どのくらいの時間そうやって泣いていたかはわからない。ただ、気がつくとかの女の後ろにヴィトールドが立っていた。
 シャルロットは振り返った。
「手紙を・・・読んだのか・・・?」ヴィトールドは無表情のまま訊ねた。
 シャルロットはいったんうなずき、それから首を横に振った。
「ええ・・・最初の・・・一行・・・だけ」シャルロットは、しゃくり上げながら一語ずつ口にした。
 ヴィトールドは、封筒から、小さく折りたたんで封がしてあるメモのようなものを取りだし、シャルロットに手渡した。
「これは、きみにだ」
 シャルロットは、手作りの小さな封筒を見た。明らかに女性の筆跡と思われる丁寧な字で<これは、シャルロット嬢(パンナ=シャルロット)にお渡し下さい>とポーランド語で書かれていた。
 シャルロットは顔を上げ、ヴィトールドの促すような表情を見た後、ゆっくりと封を切った。
 意外なことに、手紙はフランス語で書かれていた。


シャルロットさま
 突然お手紙を差し上げることをお許し下さい。わたしの名前は、ユーリア=レーベンシュタイノヴァと申します。旧姓のクリモヴィッチを名乗った方がおわかりいただけるかしら。あなたはわたしをご存じないと思いますが、わたしはあなたを知っています。いいえ、たぶん、知っているはずです。あなたは、クラコヴィアクのブローニャであり、ザレスキー氏のお気に入りの孫です。わたしは、彼の口からあなたのことを何度耳にしたことでしょう! あの彼があれほどまでにかわいがった人間は、この世に3人しかいなかったはずです。もちろん、亡くなられた娘さん、その娘さんがこの世に一人だけ残したかわいい孫、そしてあなたです。
 失礼とは存じますが、わたしは、あなたが彼に宛てた手紙を読んでしまいました。もちろん、彼が見せて下さったのですが・・・



 シャルロットはそこまで読むと真っ赤になって目をそらした。
 ヴィトールドは無表情のまま暖炉の方を見つめていた。自分が赤くなっていることに気づいていないことを知り、シャルロットは再び手紙に目を移した。


・・・もちろん、彼が見せて下さったのですが、わたしは、あれほど感動的な文章を読んだことは一度もありません。愛する夫(ルドヴィーク)からのラヴ=レターさえ、あれほどの想いを伝えてはくれませんでした。手紙を手渡したとき、彼は怒っているように見えました。『わしは、またしても裏切られた。なぜなんだ? どうして、わしの愛する女性たちは、そろいもそろって、全員間違った相手に恋をしてしまうんだ?』彼はそうつぶやき、天井をじっと見つめていました。わたしは、彼の言う<愛する女性たち>に入るのかどうかはわかりませんが、彼が考える<間違った相手>と結婚してしまった人間のひとりです。もちろん、自分の決断を間違っていると思ったことは一度もありませんが・・・。彼がわたしとヴィテックを結婚させようと考えていたことはよく知っています。わたしがそれを真面目に考えたことがないように、ヴィテックの方もそう考えたことは一度もないんじゃないかしら。わたしたちは、小さい頃から、会えば喧嘩ばかりしていましたから。わたしがルドヴィークと出会ったのも、ヴィテックがあなたと出会ったのも、運命だと思います。わたしは、彼に答えました。『運命の相手に出会ったとき、なぜ出会ってしまったの、と問うものかしら?』・・・彼は少し考えてから答えました。『運命の相手に出会ったことがないものでね。いや、あれが運命だったのかも・・・』そして、彼は言いました。『たぶん、あの子に会ったのは運命だった。わたしは、あの子のおかげで幸せだった。あの子は、今度はヴィテックを幸せにしてくれるだろう・・・』
 それが、元気な彼の姿を見た最後でした。それからわずか数時間後、わたしは横たわっている彼の前でこうして手紙を書いています。あのあと、彼はきっとあなたに手紙を書いたはずです。彼のことだから、<ヴィテックを頼む>という言葉は決して書かなかっただろうと想像できます。だから、わたしはあなたに手紙を書こうと思いました。彼のあの言葉を伝えたかったんです。彼が手紙に何を書いたのか、本当のところはわかりません。ですが、彼が書こうとしていたことはただ一つです。それは、祝福の言葉です。
 あなたとは、義理の又従姉妹の関係になりそうですね。今後ともよろしくお願いします。
 それでは、いつの日か、ポーランドでお会いしましょう。

 あなたの新しいまたいとこ
 ユーリア=レーベンシュタイノヴァ
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