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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第8章

第149回

 シャインは、まわりの人たちにクラリスを紹介した。
「この子は、クラリス=ド=ヴェルモンといって、作曲家だ。かの女とは、昨日<レザンフェール>で会った。あそこの若いやつらといったら、どいつもこいつもバローの仲間だろう? ところが、かの女は違った。酔いがまわってピアノを弾き出したバローに向かって、『それでは、5度とオクターヴの連続だわ』って言ったんだ」
 拍手が起こった。
「やった!」誰かが叫んだ。「バローは、さぞ驚いただろう?」
「突然コンセルヴァトワールに逆戻りしたような気分だったろうね」オーギュスト=デュランは人の悪いほほえみを浮かべた。「彼とは、和声のクラスからずっと一緒だったけど、あの頃から教授は、彼の番になると、ペンを投げて怒り狂っていたものだ・・・」
「・・・でも、和声クラスを終えたんでしょう?」クラリスが訊ねた。
「とんでもない! 誰があんなやつに合格点をつけるものか。あいつは、連続5度や連続8度が禁則だなんて、ついに覚えなかったに違いない」オーギュスト=デュランが軽蔑したような口調で言った。
 クラリスは、昨夜ペコーが同じようなことを言ったことを思いだした。
 シャインは彼をにらみつけてから続けた。「・・・バローは、当然、かの女をばかにした。かの女は、彼の挑戦を受けて立った。かの女は、バローの前でピアノを弾いた。もちろん、即興でね。それを聞いて、わたしは、かの女をきみたちに会わせたいと思ったのさ」
 クラリスはシャインに訊ねた。「ここは、<反バロー>の集会なの?」
 ペコーは驚いてかの女を見た。そして、オーギュスト=デュランに言った。「オーギュ、かの女に変なことを吹き込んだんじゃないだろうね? この子は、真面目な子だよ」
「いや、別に・・・」彼は、あの大きな目をわざとくるくる動かしながら、とぼけた調子で答えた。「ただ、同じ作曲家として、バローのことを話しただけさ・・・」
「もちろん、バローの悪口をね」誰かが口をはさんだ。
 シャインは、もう一度彼の方を見てから続けた。「かの女は、シモンの元で勉強すると言った。わたしとサンディはそれをやめさせようとした。そして、やめる気になったらここに来るようにと言ったんだ。まさか、こんなにすぐに再会できるとは思っていなかったけどね」
「クラリス=ド=ヴェルモンといったら、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンの娘だったよね。パリにいたとは知らなかったな」後ろで声がした。
「この人は、オリヴィエ=ラントー。メランベルジェの弟子だから、見覚えがあると思うけど・・・」シャインが言った。
 クラリスはラントーと握手した。後に<フォルス>のメンバーとして有名になるこの人は、このころはまだ無名の作曲家で、ここに集まるバローに反対する人たちの中で、まだまだ目立たない存在であった。かの女は、メランベルジェのところで彼に会った記憶はなかった。当時から、彼はどちらかと言うと目立たない青年だったに違いない。
 シャインは、クラリスをまわりの人に次々と紹介してまわった。
 ペコーは、オーギュスト=デュランの横に座った。
「それにしても、ヘルムートはどうしちゃったの? 彼は、女の子が嫌いだったはずだろう?」オーギュスト=デュランが訊ねた。
「さあね。本人に聞いてみたら?」ペコーは肩をすくめた。
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