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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第83章

第1507回

 次の日曜日、シャルロットは教会でヴァーク=ブーランジェに会った。彼に結婚報告をしていたとき、二人の近くをひとりの女性が通過していった。
「ロラン先生?」シャルロットはその女性に声をかけた。
 女性は立ち止まり、小首をかしげてシャルロットを見つめた。
「覚えていらっしゃいますか? シャルロット=チャルトルィスカです」シャルロットは女性が知っている名前で自己紹介した。「今のわたしは、シャルロット=ド=サン=メランですが」
 女性---リディア=ロラン---の顔に突然赤みが差した。
「シャルロット=ド=サン=メラン・・・?」
「わたし、クラリス=ド=ヴェルモンの娘だったんです」シャルロットは答えた。
 そのとたん、シャルロットはかの女に抱きしめられていた。
「クラリスの? やはり、あなたは・・・」
「やはり・・・?」ヴァーク=ブーランジェがつぶやいた。
「こんにちは、ヴァーク」ロラン嬢はシャルロットの連れの方を初めて見た。「かの女がクラリスの娘だって、本当なの?」
 ヴァーク=ブーランジェはうなずいた。
「ああ、どうして気づかなかったのかしら!」リディア=ロランはもう一度シャルロットを見つめた。「わたし、ヴィルフォール音楽院時代に、寮でクラリスと同室だったの」
 シャルロットは目を丸くした。「本当なんですか?」
「あなたと初めて会ったとき、あなたがナターシャよりクラリスに似ているのが不思議だったの」リディアが言った。「でも、そういうことだったのね」
 そう言うと、リディアは大粒の涙をこぼした。「わたし、クラリスの娘さんを教えたんだわ!」
「教えただけじゃありません」シャルロットはヴァークに言った。「かの女がいなかったら、わたしは二つのピアノコンクールに優勝できませんでした」
「あなたが、シャルの先生?」ヴァークも驚いた。
「ええ、サント=ヴェロニック校でね」リディアは泣きながら答えた。
 そう言うと、リディアはシャルロットから離れた。
「考えてみると、不思議だわ」リディアは言った。「わたしたちは、ヴィルフォールで出会った。1889年のことだった」
 リディアは遠い目をしていた。シャルロットは、リディアの言う<わたしたち>に自分が含まれていないことに気づいた。
「あれから、30年。生き残ったのはわたしだけ・・・」リディアはしみじみと言った。「生まれてから半世紀も経っていないと言うのに、なんて寂しい話かしら」
 シャルロットは答えなかった。
「わたしとクラリスが同室、ナターシャとリネットが隣の部屋にいたの」リディアが言った。「わたしとクラリスが同じ年で、ナターシャとリネットが3つ年下だった。だけど、わたしたちは同期生だった。同期で一番年上だったのが、クラリスの夫になったエマニュエル・・・」
 そう言うと、リディアは感慨深げにシャルロットを見た。
「・・・独身なのはわたしだけ」リディアが言った。「みんな結婚して家庭を持った。子どもたちにも恵まれた。にもかかわらず・・・」
 そして、かの女はにっこりした。「不思議ね。あなたは、彼らみんなの子どもだった。エマニュエルとクラリスの娘。リネットとナターシャが養母として育てた」
「・・・そして、あなたが、わたしのピアノの先生になって下さった」シャルロットが言った。「きっと、母がそう導いてくれたのだと思います」
 それを聞くと、リディアは再び涙ぐんだ。「あなたは、わたしの最高の弟子だったわ・・・」
 そして、かの女は再びシャルロットを抱きしめた。
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