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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第83章

第1511回

 2月中旬、シャルロットとヴィトールドは、必要な書類を持って役場に行き、結婚の手続きを済ませた。そして、彼らはマルセイユをあとにした。同行したのはロジェだけで、残りの人たちは一足先にローザンヌに戻ることになった。
 シャルロットたちが向かったのは、グルノーブルだった。グルノーブル市民オーケストラとのコンサートのためであった。
 彼らはサヴェルネ家で結婚報告を行ったあと、ルブラン家に向かった。
 ルブラン家は、現在5人家族だった。シャルロットはルブラン氏には一度も会ったことがないが、ルブラン夫人には初めて会ったとき以来ずっと世話になっている。かの女たちが初めて出会ったのは1913年のジュネス=コンクールの時だった。それから時間が過ぎ、ルブラン家は様変わりしていた。
 初めてこの家を訪れたとき同様、ドアを開けたのはルブラン夫人だった。シャルロットは前もって訪問を知らせていたので、かの女が会いたい人たちは顔をそろえていた。ルブラン夫人、息子のマリウス、そしてその妻のシドニー。
 シャルロットは、マリウスが抱いている赤ん坊を見て目を丸くした。黒い髪、灰色の目をした赤ん坊は、驚くほどシドニーにそっくりだった。
「この子の名は、シャルル=ブノワ=ルブランよ」ルブラン夫人---年長の方の---は誇らしげに孫を紹介した。
 その名を聞くと、シャルロットは目を丸くした。
「彼が、二人の友人にちなんだ名前をつけたの」シドニーはほほえんだ。「そして、ノルベールが代父になってくれたの。洗礼式には出られなかったけど、あなたが彼の代母だとわたしたちは思っているわ」
 シャルロットはシドニーの手を握りしめた。「ありがとう」
「この子は、代母のような音楽家になるのかしら? それとも、代父のような小説家になってくれるのかしら?」シドニーは夢見るような目をしていった。
 シャルロットは、シドニーがこれほど母親らしくなるとは思っていなかった。そもそも、シドニーがマリウスと結婚するということ自体、シャルロットの想像外のできごとだった。かの女のような女性が結婚するとは思えなかったのだ。
「彼の先生になるのは難しいわね、物理的に」シャルロットはすまなそうに言った。
 そして、シャルロットはルブラン家の人たちをヴィトールドとロジェに紹介した。彼らは、シャルロットがヴィトールドを自分の夫だと紹介したとき、一瞬目を丸くした。婚約したとは知らせていたが、結婚したことは知らせていなかったのである。
「本名のノルベールではなく、ペンネームのベネディクト(ブノワ)を子どもの名にしたんですね」シャルロットはマリウスに言った。
「ノルベールよりベネディクトのほうが、幸せになれそうな気がすると彼が言うんでね」マリウスが答えた。
 シャルロットはマリウスの手から赤ん坊を受け取り、あやし始めた。子どもはうれしそうに笑い、シャルロットは言った。
「そうね、この子には<祝福された者(ブノワ)>の方が似合っているわ」
 シャルロットは、自分の名前---今では、この赤ん坊の名前でもある---シャルルの由来となった人物の話を3人に聞かせた。かの女の祖父ルイ=フィリップ=エルキュール=シャルル=ド=ルージュヴィル(プランス=シャロン)の長い物語が終わったとき、3人は感動のあまり涙ぐんでいた。
「この子を、今日からシャロンと呼ぶことにするよ」マリウスが言った。「この子が、少しでもその名前の由来である人物のような人生を歩んでくれたらと思う」
 二人のルブラン夫人は即座に同意した。
 シャルロットは、以前マリウスにピアノ伴奏を頼んだのにキャンセルしてしまった件を謝り、3人にコンサートのチケットを渡した。
「ぜひ、コンサートにいらして下さい。これは、恐らく、フランスでの最後のコンサートになると思います。わたしは、コンサートが終わったらスイスに行きます。たぶん、そのあとポーランドで暮らすことになるでしょう・・・」
「フランスには、戻ってこないということなの?」シドニーが訊ねた。「もう二度と会えないの?」
 シャルロットはシドニーの手を握った。「フランスには戻らないかも知れないわ。でも、わたしたち、また会えるわ。ローザンヌはここからそう遠くはない。いつでも訪ねてきて。もし、彼が」
 シャルロットはルブラン夫人が抱き上げている赤ん坊の方を見た。「・・・わたしの弟子になりたいと思ったら、わたしは彼を住み込みで指導します。でも、そんなことにはならないと思うわ。彼は、ノルベールの影響を強く受けることでしょう」
 シドニーはほほえみを浮かべた。「シャロンは、マリウス=ルブランの息子よ。父親に似たら、きっとピアノが弾きたいというわ」
「そのときは、父親以上のピアニストに育ててみせるわ」シャルロットはそう言ってほほえんだ。
「それは頼もしいな」マリウスはそう言ってシャルロットと握手した。
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