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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第83章

第1523回

 庭に出たとき、二人は白衣を着た男性がこちらに向かって歩いてくるのを見た。
「ティルニー先輩!」フランソワは男性に手を振った。
「先輩、か?」ローラン=ティルニーは、かつての同級生に笑いかけた。「ずいぶん他人行儀だな、フェネアン?」
 フランソワは、サント=ヴェロニック校の後輩が先輩に向かってするお辞儀をした。
「コルネリウスに用があったのか?」ローランはにこにこしたまま訊ねた。
「いいえ、実は、あなたに・・・」
「きみ、でいい」ローランは言った。「今さら、他人行儀な挨拶をしてどうする?」
 フランソワはにやりとした。「きみに、お客さんだ」
 フランソワはローランにノルベールを紹介し、彼を訪ねてきた理由を説明した。
「<きづたの家>は読んだ」ローランが答えた。「歴史は繰り返す・・・だな」
 ノルベールはローランがフランソワと同じ感想を持ったことに興味を持った。やはり、あの小説は、彼の両親の話だったのか?
「・・・で、プティタンジュは元気でやっているのか?」ローランが続けた。
 二人は驚いたようにローランを見つめた。
「・・・まさか、自殺したのではあるまいな・・・?」ローランは声を潜めた。
「トトは、きみに何も知らせていないのか?」フランソワが言った。「彼は、かの女と結婚した」
 ローランは一瞬絶句した。
 ノルベールはうなずいて見せた。
「なぜだ・・・?」ローランは狼狽した。「まさか、本当に、彼がかの女を・・・?」
 ノルベールはもう一度うなずいた。
 それを見て、フランソワも動揺したような表情になった。
 ノルベールは、フランソワにはそのあたりの事情を説明していなかったことを思い出した。
 フランソワは真っ青になり両手を握りしめた。もし、その場にヴィトールドがいたら首を絞めていたかも知れない、そんな表情だった。
「ああ・・・あなたも・・・だったんですね・・・?」ノルベールはそっと声をかけた。
 フランソワはうめきながら、その拳を体にぴたりと貼り付けた。しばらくの間、彼は何かの衝動と戦っているようだった。それから、彼はぐったりとしたように握りしめた拳を開いた。
「・・・幸せそうでしたか・・・?」フランソワはそう訊ねた。
 ノルベールは正直に答えた。「幸せになります、とかの女は答えた」
 その答えを聞き、ローランもうなり声を上げた。
「罪の報い・・・」ローランがつぶやいた。「でも、無理もない。あんなにきれいな女の子が目の前にいたら、聖人だって理性を失うに違いない」
 ノルベールはうなずいた。
 フランソワはゆっくりと二人を見た。「・・・そんなにきれいになったのか・・・?」
 二人はうなずいた。ノルベールは言った。
「あの指揮者さんが、『ぼくは、目が見えないことをこれほど感謝したことはない』と言っていた」
 ローランは口の中で何かつぶやきながらうなずいた。
 フランソワはこわばった表情の一部をくずした。「見えないのなら、なぜ美人だとわかるのだろう?」
 ノルベールはようやくほほえみを取り戻した。「そういえば、そうだよね?」
「そうか・・・」フランソワがつぶやいた。「かの女に再会しないですんで、よかったのかもな・・・」
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