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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第8章

第153回

「彼らって? どういうこと?」オーギュストが訊ねた。
「わたしが、ヘルムートとサンディに初めて会ったとき、『アンリ=ロランにあてた推薦状をもらってパリに勉強に来たの』と言ったら、即座に『やめなさい』と止めたの」クラリスが言った。
 オーギュストはにやりとしてうなずいた。「なるほど。やめて正解だな。あなたには、ロランは必要ない」
「そうかしら?」クラリスはまた首をかしげた。
「そうさ。その点では、わたしも彼らと同意見だ」オーギュストは言った。
「その点では、バローもあなたと同意見だわ」クラリスは、オーギュストの口まねで言った。
 オーギュストは気を悪くしたふりをした。しかし、我慢できずにふきだした。
「バローが言ったわ。『メランベルジェにも、誰かに習うべきじゃないって言われたの?・・・ほう、初めて彼と意見が一致したな』って」クラリスが言った。
 オーギュストは笑っていた。
「ねえ、マリー=クレールの話を続けて」クラリスが催促した。
 オーギュストは笑うのをやめ、真面目な顔をした。
「・・・どこまで話したか忘れたよ。わたしが初めてかの女と会ったのは、カルテットを組んでからだった。わたしたち4人は、不思議と気があって、いつのまにかかの女はひとりぼっちになっていた。ヘルムートがわたしとプランセスを結びつけようとしたのは、その頃からだったと思う」オーギュストは、大きなため息をついた。「しかし、わたしは、かの女より7つも年上だったし、それより、かの女がヘルムートを愛していることがわかっていた。ヘルムートは、わたしがかの女を愛しているとわかったからこそ、手を貸そうとしたのだろうが、わたしは、かの女に告白する気持ちにはなれなかった・・・。あれから、もう何年にもなるのに、プランセスの気持ちは変わっていない。かわいそうなひとだよね」
「かわいそうなのは、あなたのほうだわ。ごめんなさい、嫌なことを話させてしまったみたいね・・・」
「気にしていないよ。わたしが勝手に話したんだし。それに、わたしにとっては過去の話だ」
「じゃ、あなたは、結婚したんですね?」
 オーギュストは首を横に振った。「いいや。わたしは、プランセスが幸せになるのを見届けないうちは結婚しない、って決めているんでね」
「それじゃ、過去の話じゃないわ!」
「いいんだよ、クラリス。これは、大人の話だ」彼は真面目な顔をした。
「こんなときだけ、子ども扱いしないで!」クラリスは憤慨して言った。
 彼は笑い出した。その表情を見ているうちに、クラリスもいつの間にか笑っていた。
 そんなかの女を見て、彼は急に話題を変えた。
「ところで、ロビン=カレヴィを知っているね?」
 クラリスは赤くなった。「知っている、って、どうしてわかるの?」
 彼はにやりとした。その表情は、クラリスにとって、もうおなじみのものになっていた。
「彼は、有名なピアニストだもの」オーギュストはそう答えると、クラリスの目をのぞき込んだ。「・・・おや、それ以上の関係だったのかな?」
 クラリスは思わず下を向いた。
「おやおや・・・」彼はわざとらしく肩をすくめて見せた。「・・・あなたたちは、ただの友達じゃなかったんだ・・・」
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