FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第84章

第1528回

 時間が経つにつれ、ヴィトールドの憂鬱はひどくなる一方だった。
 こんなはずではなかった・・・彼は思っていた。
 自分は心から妻子を愛している。だが、自分が愛するほどの愛を彼らから受け取っていないように思える。
 シャルロットは確かに自分を愛しているし、自分以外の誰かに心を移してはいない。たとえ、その相手がコルネリウス=ド=ヴェルクルーズであってもだ。かの女と自分との間にある溝は、ほかの誰かに由来するものではないのは確かだ。だが、その溝が広がっているのも確実に思える。かの女は、性的な意味で自分に触れられるのを嫌がっている。一緒のベッドで寝ることさえ、本当は嫌なのだというのがわかる。だから、『寝ているときにそばに誰かがいるのがつらい。いきなり触られると飛び起きて首を絞めてしまうかもしれない』と言い訳して寝室を別にしたが、その程度ではかの女の恐怖心は収まっていないのは確かだ。たぶん、難産だったことをかの女は忘れてはいないのだ。あの苦しみを二度と味わいたくないと思っているのだろう。あのときのかの女の苦しむ声が、まだ耳に残っている。だが、男女は子どもを残すために結婚するのではないのか?
 もし、ロジェが自分の立場にいたら、きっとシャルロットには手を触れないだろう。自分の子どもを産んでもらうより、かの女がそばにいてくれることの方が大事だと彼ならば考えるだろう。少なくても、かの女がもう一度子どもを産んでみたいと言い出すまでは黙ってそばにいることを選択するに違いない。それが彼の愛情表現だ。
 だが、自分の立場は違う。自分は、ザレスキー家のリーダーとして、子孫を残す義務がある。子どもはできればたくさん欲しい。スターシェックはかわいい。だが、自分に似た女の子も欲しい。自分には、ロベール=フランショームのフィアンセとなるクラリス=ザレスカが必要だ。自分の目を受け継ぎ、シャルロットのほほえみを持つかわいい女の子・・・。いや、それだけではなく、スターシェックには弟も必要だ。できれば、弟たちの存在が・・・。たとえ、シャルロットがどんなに出産を恐がったとしても、かりに自分を嫌いぬくことがあったとしても、かの女に触れないわけにはいかないのだ。
 幸い、かの女は夫婦の義務を拒んだことは一度もない。心の底でどんなに恐がっていたとしても。
 ヴィトールドは、ロジェとスターシェックのことを思い巡らせていた。スターシェックはロジェになついている。知らない人が見ると、親子だと間違われるほど彼らは親密だ。シャルロットとロジェはまたいとこの関係だ。二人が似ていると考えたことはほとんどなかったが、スターシェックを見ていると、シャルロットとロジェが近い関係だとわかる。子どもは、シャルロットとロジェの共通の祖先に似ているからだ。同じザレスキー一族とは言え、自分とシャルロットはさほど近い関係ではない。だが、子どもが自分よりロジェに似ているのは面白くない。
 ロジェには持病がある。今後さほど生きることができないということを、彼自身、悟っているのかも知れない。彼が結婚しないのは、恐らくそのためだ。彼は優しい男だ。自分の死後、妻と子どもに苦労させたくないのだろう。しかし、自分が彼の立場にいたら、逆に結婚したいと思うにちがいない。この世に、自分が生きていたという証を残して死にたいと思わないだろうか? 自分の分身をこの世に残したくはないのだろうか・・・? だが、子どもを残すには、子どもの母親が必要だ。誰でもいいというわけにはいかない。そして、彼が愛している唯一の女性とは・・・。
 ヴィトールドは首を振った。その女性は、すでに結婚している。その女性を自分の子どもの母親にすることはできない。だが、その女性の子どもは、自分によく似ている。決してこの世で持つことができない自分の息子。自分に、そして愛するひとにそっくりな男の子・・・。それだからこそ、子どもがいないロジェがスターシェックに固執するのかも知れない。スターシェックは、ロジェの夢なのだ。決してかなえられることがない夢。
 ヴィトールドは、ロジェに同情した。ロジェがスターシェックにこだわる気持ちはわかるつもりだ。彼が自分たち一家の守護者だと思い続けるのならば、それを止めるつもりはない。スターシェックをかわいがってくれるのなら、その気持ちを尊重しよう。もし、今の状態が続くのであれば。スターシェックが、<おじさん>を慕っているのであれば・・・。
 しかし、ロジェ自身が、彼らの微妙なバランスを崩した。
 ロジェは、<ル=ヴァンティエーム=シエクル>に、<破滅>という作品を発表し始めたのである。
 その作品に出てくる3人の男女の関係は、ヴィトールドの神経を逆なでするものだった。
 兄妹のように育ったマルクとヴィルジニー。二人はいとこどうしだった。彼はかの女をずっと愛していたが、かの女の方は彼を兄だと思い続けている。ヴィルジニーは、舞踏会で会ったハンサムな青年ユージェーヌに一目惚れしてしまう。ユージェーヌの方もヴィルジニーに夢中になる。やがて、事件が起こる。ある舞踏会の夜、ヴィルジニーとユージェーヌはついに結ばれてしまうのだが、マルクが偶然その場面に遭遇してしまう。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ