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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第84章

第1530回

 ヴィトールドは混乱した。小説は、あきらかに自分に読ませるために書かれたものだ。もしかすると、自分に読ませるためだけに書かれたものかも知れない。
 ロジェは、小説という形を取ってヴィトールドに告白している。
 彼は、シャルロットに睡眠薬の入ったコーヒーを飲ませ、かの女に自覚がないまま自分のものにした。その結果、シャルロットは、自分では全く気づかないまま、ロジェの子どもを産み育てている・・・。
 つまり、ロジェは、スターシェックが本当に自分の息子だと主張しているのだ!
 だが、根拠は全くない。
 そんなことは、ロジェの妄想だと思いたかった。なんといっても、彼は小説家だ。
 シャルロットとロジェは、またいとこにあたる。子どもがロジェに似ていてもおかしくはない。その事実を説明するため、彼とシャルロットが結ばれたというストーリーをあえて作り上げる必要はどこにもない。なのになぜ、わざわざそんな話をねつ造する必要があるのだ? そこまでして彼は自分に何を訴えようとしているのだ?
 ヴィトールドは突然肩をたたかれ、びくっとして振り返った。
 そこには、白衣を着たジョスラン=ロッシェル=デルカッセが立っていた。
「わたしの患者は、いつものところかい?」リオネル=デルカッセの父親は、息子そっくりな笑顔を浮かべながら訊ねた。
 ヴィトールドは黙ってうなずき、バルコニーの方を指さした。指さした先から、子どもたちの笑い声が聞こえた。それに混じって、二人の女性の笑い声がした。ロジェはロッキングチェアーに座って子どもたちを見ていた。そのかたわらにはよく似た二人の男の子がいた。一人はスタニスラスで、もう一人は彼の乳兄弟ジェルマン=ベニエだった。そして、彼らの母親たち---子どもたちの乳母をしているマリー=ベニエとシャルロット---が子どもたちを笑いながら見つめていた。ほのぼのとした光景だった。
 ロッシェル医師が言った。「あのロジェが、あんなに子煩悩だったとは知らなかったな。彼らを見ていると、本当の親子みたいだ。うらやましいな」
「本当の親子・・・?」ヴィトールドは小さな声で繰り返した。
「それにしても、ロジェとスターシェックはよく似ているよね。知らない人が見たら、本当の親子に見える」
 そう言いながら、医者はその情景からヴィトールドへ視線を戻した。
 バルコニーの情景を見つめていたヴィトールドの表情を見て、医者は顔をくもらせた。
「・・・<破滅>だな?」
 ヴィトールドはうなずいた。
「彼らが似ているのは当然さ。シャルロットとロジェは近い親戚だからね」
「だが、子どもは、ぼくよりロジェに似ている」ヴィトールドは苦々しく言った。
 医者はちょっとの間何も言わなかった。「・・・まさか、彼らを疑っているのか?」
 ヴィトールドはため息をついた。「もしも、<破滅>と同じことが起こっていたら? シャルロットは全く自覚なしにロジェに抱かれたとしたら・・・? げんに、子どもは彼に似ている」
 ロッシェル医師はびくっとしたようにバルコニーに視線を向け、もう一度ヴィトールドに視線を戻した。
「まさか」
「だが、思い当たることはあるんです。睡眠薬入りのコーヒー。落ちていた万年筆・・・」
「ばかな!」彼は青ざめ、ヴィトールドの言葉を遮った。
「・・・そして、スターシェックの誕生」ヴィトールドはそう言って言葉を切った。
「今日のきみは、おかしいぞ」医者が言った。
「そうでしょうか?」ヴィトールドはかすれた声で言った。
「いつものきみなら、そんなことは言わない。『あんなの、ロジェのいつもの妄想に決まってるじゃないか』・・・いつものきみならそう言って笑い飛ばすはずだ。いったい、何があったんだ?」
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