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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第84章

第1531回

 ヴィトールドは黙って肩をすくめた。
「まあ、座りなさい。今日のきみには、医者が必要かも知れない」そう言いながら、ロッシェル医師は近くの椅子に座った。「最近、よく眠れるかね? 食欲は? あまり食べていないんじゃないか?」
 ヴィトールドは医者の近くに座った。
「図星だろう?」医者はにやりとした。「わたしも、医者のはしくれだ。ちょっと見れば、そのくらいのことはわかる」
 そして、ヴィトールドの目をのぞき込んだ。「きみにも、睡眠薬が必要か?」
「ロジェには、それを処方しているんですか?」ヴィトールドが訊ねた。
 医者はうなずいた。
「シャルロットには?」
 医者は真面目な顔をした。「かの女が睡眠薬を飲んでいるかどうか、きみにはわからないのかね?」
 ヴィトールドは急に赤くなった。
 その反応を見て、ロッシェルはにやっと笑った。「うん、結構だ」
 そして、こう続けた。「夫婦は、常に同じベッドで寝ること。それが、夫婦円満の秘訣の一つだ」
 ヴィトールドは真面目な顔で訊ねた。「ほかには?」
 ロッシェルは片目を閉じた。「簡単なことだ。かの女を愛することだよ」
「ベッドの中で?」
 それを聞いてロッシェルはにやりとした。「ベッドの外でもだ」
 目を丸くしているヴィトールドを見て、ロッシェルは笑い出した。
「まさか、ベッドの外で愛しあったことがないとは言わないよな? 新婚さんだというのに?」
 ヴィトールドは真っ赤になった。
「・・・だが、わたしが言いたいのはそれじゃない」ロッシェルは真面目な顔で言った。「いつでも相手のことを考えること。かの女を信じること。かの女を許すこと。それが、本当の愛じゃないのかな?」
 ヴィトールドはうなだれた。
「かりに、小説と同じことがかの女の身に起きたとしても、もし、本当にかの女を愛しているのなら、かの女のことを許せるんじゃないのかな?」医者が言った。「いや、それ以前に、かの女の身にはそんなことは起こっていないと信じられないの?」
「だけど、スターシェックは、ロジェにそっくりです」ヴィトールドが言った。
「そりゃそうだろう。シャルロットとロジェは親戚同士だ」医者はさりげない口調で言った。「似ていなかったらかえって変だ」
 そして、医者は笑い声のする方を向いた。
「シャルロットは、今、幸せだ」ロッシェルが言った。「だが、出産直後はあんな表情を見せなかった。かの女は、ひどい育児ノイローゼにかかっていた。スターシェックを見て、どうしていいかわからないと悩んでいた」
 ヴィトールドは驚いた顔を見せた。シャルロットが悩んでいることには気づかなかったからだ。
「わたしはかの女に言った。子どもを産めば母親にはなれる。しかし、自分の子どもを産まなくても母親になれる女性はたくさんいる。そうでなかったら、この世に<育ての親>という言葉は存在しないだろう、と・・・」ロッシェルが言った。「本当の意味で母親になるには、子どもと接触をすること、そして、子どもを愛することだ。本当の意味で父親になるのも、そういうことじゃないのかな? 極論を言えば、子どもの親になる資格は、その子どもを愛し、幸せにしようと心から願っていることだけだ」
 ヴィトールドは何も言わなかった。
「母親は、その子どもを自分の子どもだと確信できる。自分が産んだ子かそうでないか、自分がよく知っているからね」ロッシェルが言った。「その意味では、父親の定義は難しい。子どもを見て、自分の子どもかどうか、本当のところは男性にはわからない。愛する女性の子どもが自分の本当の子どもだと確信が持てる男性は、幸せだと思うよ」
 ヴィトールドは黙ったままうなずいた。
「だが、かの女の子どもは、きみの子どもだ」ロッシェルが言った。
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