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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第84章

第1533回

 その1週間後、ヴィトールドは妻と息子と一緒にマジョーレ湖のほとりの小さな貸別荘にいた。ドクトゥール=ロッシェル=デルカッセの処方箋に従い、<家族3人だけで旅行>に出かけたのである。結婚前も結婚後もそうだったが、彼らが3人だけで生活するのはこれが初めてだった。軍隊暮らしを経験しているヴィトールドにとって、身の回りのことを自分でこなすことは難しいことではなかったし、サント=ヴェロニック校で教育を受けたシャルロットにとって一人で家事をすることは苦にはならなかった。ただ、二人とも二人だけで子どもの世話をするのは初めてのことだった。
 土曜日の朝、3人は車で買い物に出かけ、一週間分の食料と必要なものを買ってきた。彼らが誰かと接触するのは、この家に来て以来初めてのことだった。その帰り道、シャルロットはヴィトールドに言った。
「ねえ、トールディ」
「うん?」ヴィトールドは運転しながら返事をした。
「ずっと気になっているんだけど・・・」
 ヴィトールドは顔を上げた。そして、ミラーをちらっと見ながら言った。「・・・後ろの車か?」
 シャルロットはうなずいた。
 ヴィトールドは小さくため息をついた。「気づいていたんだね?」
 そして、彼は言った。「振りかえるんじゃない。気づかないふりをしなさい」
 シャルロットははっと息をのんだ。
「大丈夫。彼らは、危害を加えることはないよ」ヴィトールドは静かに言った。
「ボディーガード?」シャルロットは首をかしげた。
「逆だ。彼らは、ぼくたちを監視しているんだ」ヴィトールドが言った。
 シャルロットはスタニスラスを抱きしめた。
「恐がることはない。きみが今まで気づいていなかったのが不思議なくらいだ」ヴィトールドが言った。
「ずっと・・・監視されていたの?」
 ヴィトールドがうなずいた。「そうだ」
「いつから?」
「退役してからずっとだよ」
 シャルロットの表情が硬くなった。
「気にすることはない。無料のボディーガードだと思えばいい」ヴィトールドはにやりとした。「彼らは、ぼくに危害を加えることはない。ぼくが、怪しい素振りさえしなければね」
「怪しい素振り?」
「たとえば、不審な人物に会うとか」ヴィトールドはそう言うと不敵な笑いを見せた。「ぼくは、無害な退役軍人なんだけどなあ・・・。いいかげん、わかってもらってもいいと思うんだけど」
 シャルロットの声は少しだけふるえた。「でも、いったい、誰が・・・?」
 ヴィトールドは優しく言った。「あえて、考えないようにしている」
 その後は、二人とも無言だった。
 その日の夜、シャルロットは夕食を食べながらヴィトールドに言った。
「本当に、彼らはあなたに危害を加えることはないの?」
 ヴィトールドは落ち着いた手つきでパンをちぎりながら答えた。「ないと信じたい。これまでにもなかったのだから、今後もないだろうと思う。だから、尾行されていることに気づかないふりをするんだ」
「あなたは、要注意人物だったのね?」シャルロットが言った。
 ヴィトールドはにやりとして答えた。「違うよ。ぼくは、要人だったんだ」
 シャルロットは真面目な顔で言った。「わたし、あなたが将軍になり損なったことを信じるわ」
 ヴィトールドはふきだした。「今ごろになって、やっと?」
 その日以来、シャルロットは、自分たちが常に監視されていることを意識するようになった。
 同じ頃から、かの女のまわりで不思議な出来事が起きはじめた。
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