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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第84章

第1543回

 シャルロットたちは12月1日にT城に戻ってきた。ロジェは心から3人を---とくにスタニスラスを---喜んで迎えた。ヴィトールドは、ロジェがスタニスラスを自分の息子のように抱きしめるのを見ても、もう心を乱されることはなかった。ヴィトールドは一緒に出迎えたリオネル=デルカッセに、あたらしい作品の構想を話すのに夢中になっていた。リオネルはヴィトールドから解放されるとシャルロットに挨拶した。そのあと、彼はかの女に訊ねた。
「もしかすると、新しい家族を連れて帰ってきたのか?」
 シャルロットは真っ赤になった。それを聞いたロジェは、ぱっとシャルロットの方に視線を向けた。
「そうか、おめでとう」リオネルはヴィトールドに言った。
「ありがとう」ヴィトールドはほほえんだ。
「そうか。おめでたいことが続くのはいいことだ」リオネルはそう言いながらロジェとスタニスラスの方に歩き出していた。
 ヴィトールドはシャルロットを優しく見つめた。「いつ話してくれるのかと思っていた」
「はっきりしてから、と思ったの」シャルロットは恥ずかしそうに答えた。
 ヴィトールドはそっとおなかを撫でた。「今度は、女の子が欲しいな」
「どうかしらね?」シャルロットはそう言うと、目を大きく見開いた。
 その場に立っていたのは、オーギュスト=ド=マルティーヌだったからだ。
「ミュー!」シャルロットは金切り声に近い声を上げ、オーギュストに駆け寄った。
 オーギュストはシャルロットが抱きつこうとしたのを止めた。「ほらほら・・・。そんなに乱暴なことをしたら、おなかの子どもがびっくりするよ」
 そして、かの女を優しく抱きしめた。そのあと、ぱっと体を離すと、すぐ後ろを振り返った。
「紹介するよ。ぼくの妹だ」オーギュストはブルネットの女性に声をかけた。「こちらは、シャルロット=ザレスカ伯爵夫人だ。シュリー、かの女はぼくの婚約者、マルグリット=マリー=レヴィンだ」
 シャルロットはブルネットの女性に視線を移した。かの女はレヴィン教授に---というよりも、マルガレータ=レヴィン嬢に似た女性だった。母親似だと聞いていたが、父親にもよく似ている。
 シャルロットはかの女が挨拶するのを待った。しかし、オーギュストが<伯爵夫人>という肩書きをつけたので、かの女が自分が先に声をかけるのを待っているのだと判断した。
「シャルロット=ザレスカです」シャルロットはあえて肩書き抜きで挨拶した。「というよりも、ミューの妹ですといった方がよかったかしら? あなたを新しいお姉さまだと思ってもよろしいかしら?」
 そう言うと、シャルロットはふきだしそうになった。「・・・あら、それじゃお姉さまが二人になってしまうわね」
 オーギュストは笑い出した。「いいかげん、<お兄さま>と呼んで欲しいんだがね」
「マルグリット=マリー=レヴィンです」オーギュストの婚約者ははじめてほほえみを浮かべた。その表情から、かの女は、彼がシャルロットの<姉>だったと聞かされているようだった。「マルゴと呼んで下さい。みんなそう呼びます」
「じゃ、わたしのことはシュリーでいいわ」シャルロットが言った。「だって、ミューがそう呼んでいるんですもの」
 シャルロットは、オーギュストがかの女を選んだ理由がわかったような気がした。かの女はオーギュストにぴったりな女性だった。一見物静かなように見えるが、オーギュストを見るときの表情に彼に対する愛情が見て取れた。そして、オーギュストもこの女性を愛しているのは間違いなかった。シャルロットはその様子を見て、オーギュストのためにうれしく思った。
「そうね、新しいお姉さまができるのだから、今後は<ミューお兄さま>と呼ぶようにしなくては」シャルロットは真面目な顔で言った。
 オーギュストは笑った。「今まで、ぼくを男性だと思ったことがないということ? 傷つくなあ」
 ロジェはその言葉を聞いて、オーギュストたちの方に視線を移した。オーギュストはほんの一瞬だけ、シャルロットに対してあこがれの表情を見せた。彼は、オーギュストがその感情を封じ込めようとしているのを悟った。決して届くことのない思い。彼は誰よりも弟の気持ちがわかった。ただ、彼にはわかっていた。弟が結婚を決意したのは、そのためだけではないということが。オーギュストは心の底からマルグリット=マリーを愛している。そして、マルグリット=マリーだけがオーギュストを幸せにできる女性だった。
 ミュー、きみは幸せになりなさい。きみは、誰よりもその権利がある。きみは、二人の兄たちの分も幸せになるべきなんだ・・・。
 ロジェは心の中でそう言っていた。
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