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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第8章

第155回

「かもしれない。でも、わたしは酔っていない」シャインが繰り返した。
「目がすわっているよ」デュランが言った。
 クラリスは、シャインを無視して外に出た。
 シャインは、ふらふらした足取りで後を追ってきた。
 店を出たところで、彼が訊ねた。
「クラリス、今日は何月何日だ?」かなり不明瞭な口調であった。
「まあ、11月18日よ」クラリスが答えた。かの女は、彼が酔っていることを確信した。そして、何とか彼を追い返そうと思った。
「・・・きみがここに来て、今日で1ヶ月だ・・・」
「1ヶ月・・・?」クラリスはそう言いながら、シャインの方を向いた。
 そのとき、かの女は、シャインの後ろにポスターが貼ってあることに気づいた。ロビン=カレヴィのピアノリサイタル・・・12月8日、シャンゼリゼ劇場・・・。その文字を見て、かの女は思った。自分がこうしていた1ヶ月の間、ロベール=フランショームは、ずっとピアノに向かっていたのだった。その事実は、かの女を戸惑わせた。
 彼は、かの女と別れた後、ずっとあの宿題に取り組んでいた。必死で、彼なりの結論を出そうとしていた。それがどんな結論になるのかかの女にはわからなかったが、かの女は、その結論を聞きに行かなければならないと思った。
 ただ、彼は、『結論が出たら会いに行きます』と言った。会いに来ないということは、まだ結論が出ていないということなのだろうか? それとも、すでに彼は結論を出していて、このリサイタルは、彼にとっての<別れの儀式>を意味するのだろうか・・・? かの女は、ますます混乱した。
「・・・クラリス、きみはわたしにとって、なくてはならないひとだ」出し抜けに、シャインがささやいた。
 クラリスは、急に現実に引き戻された。
 かの女は、自分でも真っ青になっていることを自覚していた。そして、さっきの言葉を繰り返した。
「あなた、自分が何を言っているのかわかっていないんだわ」
「わかっているよ」彼も繰り返した。「きみに告白するために、飲み過ぎたんだ」
 クラリスはため息をついた。
「どうか、ずっといっしょにいてほしい・・・愛している・・・」シャインが不明瞭な口調で言った。
「あなたは、酔っているわ。カフェに戻った方がいいわ・・・歩ける?」
「クラリス! わたしは本気なんだ」シャインは遮った。「よしてくれよ、お願いだから・・・」
 クラリスは彼から一歩下がった。「その話は、明日にしましょう。あなたがしらふの時にね・・・」
 彼は一歩前に出ようとした。かの女はさらに一歩下がった。
「なぜ、返事をしてくれないの?」
「あなたがしらふの時に、っていったはずよ。今日はだめ。あなたとは話せない」
 シャインは真っ赤になった。彼は怒っていた。クラリスにはそれがわかったので、身を翻すようにして駆けだした。
 彼は、かの女を追うには、あまりにも飲み過ぎていた。仕方なく、彼はカフェに引き返した。
 クラリスは、その日以来<名なし>を避けるようになった。
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