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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第85章

第1550回

 シャルロットは了解したというようにうなずいて見せた。
「隣の部屋に行かないか?」ヴィトールドが言った。「込み入った話になりそうだしね」
 他の3人は同意し、ヴィトールドのあとについて部屋を出て行った。
 隣室には誰もいなかった。そこには円卓があった。ヴィトールドは暖炉のそばの席に妻を座らせ、あとの二人にも座るように合図した。エヴァはシャルロットの向かい側に席を取った。男性二人は、女性二人を隣にして座った。
 椅子に座ると、シャルロットは目を閉じた。ちょっと考えた後、かの女は目を開き、ポーランド語で話し始めた。
「わたしは、チャルトルィスキー公爵の養女でした」シャルロットのポーランド語は、ずっと使っていなかった言語にしては流暢だった。「最初の事件は、わたしがポーランドにやってきた最初の冬に起こりました。1907年12月のことでした。でも、暗殺計画自体はそのずっと前からスタートしていました。暗殺未遂事件を起こした二人の男性の名前は、フェリックス=ザモイスキーとオーレリアン=ジェルマンといいました。ジェルマンという若者の方がフェリックスよりも年上でした。名前からわかるように、彼はフランス系の人間でした。両親を亡くした後、彼の姉は彼が大学に行くのを助けるために働きに出ました。弟の方は、姉の犠牲によって大学に進学したものの、熱心に学問に取り組むよりも、革命運動に身を入れるようになっていました。彼は、ふとしたことから、チャルトルィスキー家の動向を探るのに姉を使おうと思い立ったのです。というのは、当時、彼の姉は、チャルトルィスキー家の使用人の一人と恋に落ちてしまったからです。相手は、チャルトルィスキー家の門番の息子でした。彼は、姉を利用し、チャルトルィスキー公爵の行動を探るようになりました。こうして、彼らは、暗殺未遂事件の日程を1907年12月16日と決めました。その日は、わたしのヴァイオリニストとしてのデビューコンサートの日で、公爵夫妻は必ずそのコンサートに行くはずだったからです。ただ、彼らの計画には一つだけ大きな穴がありました。彼らのどちらも、チャルトルィスキー公爵に会ったことがなかったのです」
 シャルロットはそこまで話すと、小さくため息をついた。「もちろん、公爵は有名な政治家でもありましたから、直接会ったことはなかったとしてもどんな人物かは知られていました。ただ、彼と執事のヴォイチェホフスキーさんは、年齢も背格好もそっくりでした。彼らは乳兄弟でした。何年も一緒にいると、全くの他人でも似てくるものなんですね・・・」
「人違いで、執事が襲われた?」ヴィトールドが訊ねた。
 シャルロットはうなずいた。「会場を出る直前に、たまたま、公爵は甥に呼び止められたんです。それで、彼は、妻をヴォイチェホフスキーさんと一緒に先に帰そうとしたんです。暗殺犯は、馬車に乗ろうとした彼らに襲いかかりました。彼らをチャルトルィスキー夫妻だと思い込んだんですね・・・。犯人の一人は、共犯者を逃がすために自分がおとりとなってその場で逮捕されました。ただ、彼は厳しい追及に耐えられずに、共犯者の名前を白状してしまうんです。フェリックス=ザモイスキー。その日から、わたしたちは、名前しか知らない暗殺者の恐怖に脅えるようになりました。まさか、その人が少年だとも知らずに・・・」
 シャルロットは遠くを見つめていた。
「その後、公爵は何度か命を狙われました。わたしたちは、一人きりで行動することを禁じられ、どこにいくにもボディーガードがつけられるようになりました。ただ、わたしは、クラコヴィアクのブローニャとして活動を始めたばかりでした。いつでも大人が周りをうろうろしているわけにもいきません。そこで、公爵夫妻はフェリックス=オルシャンスキーに目をつけました。彼は公爵夫人にとっては友人の遺児にあたります。身寄りのない少年を引き取った彼らは、その少年をわたしのそばにおき、一緒に音楽教育を受けさせたのです。彼の両親も音楽家でしたから、彼は眠っていた才能を掘り起こされ、いつの間にかトリオだったわたしたちは3人ではなく、4人で行動するようになりました。わたしは、彼を兄だと思っていました。彼がそんな任務を帯びてわたしに付き添っていたなんて知りませんでした・・・」シャルロットはちいさくため息をついた。「4人でいて、本当に楽しかった。だけど、本当は女の友達が欲しかったわ・・・。わたしの周りには少年たちしかいなかったんですもの」
 ヴィトールドはふっと笑った。「少年たちと一緒に育ったにしては、きみはおてんばには育たなかったみたいだね。それとも、一緒にいた少年たちも女の子らしい遊びしかしてこなかったとか?」
 シャルロットは驚いたようにヴィトールドを見つめた。そんな風に考えたことは一度もなかった。かの女の脳裏には、幼い頃の様子が浮かんだ。一緒に勉強をしていた仲間たち。きまじめなエドゥワルド=ユリアンスキー。彼はいつだって羽目を外したことはなかった。ボディーガードを兼ねていた使用人ユゼフ=ユリアンスキーの息子だった彼は、つねに自分の本分をわきまえていた。決して出しゃばらず、それでいて二人の子どもたちの兄のようだった。考えてみれば、彼がフェリックスと一緒にいたずらをしたことはなかった。フェリックスはいつも一人でいたずらをし、しょっちゅう大人たちに叱られていた。彼は叱られ役を一手に引き受けているかのようだった。今思うと、彼は道化役をすることで、みなの潤滑液になろうとしていたのだ。シャルロットはもう一度ため息をついた。自分は、彼らのおかげで幸せな子ども時代をおくったのだ。しかし、今の今までそれに気づこうともしなかった。一度でも彼らに感謝の意を伝えたことがあっただろうか? 覚えている限り、一度もそんなことはなかった・・・。
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